オピニオン

もちろん覚えてますよ、安倍さん

 「かつて医薬品においては薬価差が大きな問題だった。7年前の診療報酬改定に際して、この薬価差をどうするかという問題について、業界側の意見も聞き入れ調整幅として2%を残したのは、私が自民党社会部会長を務めていたとき。このことは是非、覚えておいて下さい」。過日開催されたとある業界団体の新年懇親会に、安倍晋三前総理が姿を現した。自身が「イノベーションの一丁目一番地」に指名した製薬業界関係者が一同に介する場とあってか、短時間ではあったものの健在ぶりをアピールし会場を沸かせた。まあ、次期衆院選を睨んでの支援団体へのリップサービスに過ぎないのだろうが、不思議なことに「5ヵ年戦略」も「イノベーション」の言葉も、前総理の口からはひと言も聞かれず終いだった。
 薬価ベースで5.2%の引下げとなった08年度薬価改定は「イノベーション」の掛け声とは裏腹に、市場拡大再算定の範囲が拡大されるなど、相変わらず製薬業界に多大な痛みを強いる内容だった。同じ懇親会であいさつに立った日薬連の森田清会長は、「約5000億円の財源を、毎回医療に献上している構図だ」と嘆いた。さらに、こうした負のスパイラルを打破すべく産業界が提案した新薬価制度案に対しても、「データ不足で議論に入れない」「特許切れ後は市場原理に任せるだけでいいのかどうか」などと行政当局から早くも“いちゃもん”がついている。
 ところで安倍さん、ご心配には及びません。製薬業界はあなたの功績を忘れたりはしないでしょう。たとえあなた自身も、そして官僚も、「イノベーション」の文字を忘れ去ってしまったとしても。



(2008年2月8日掲載)



前後のオピニオン

薬害被害者が嘆息するOTC売場の荒廃
(2008年2月15日掲載)
◆もちろん覚えてますよ、安倍さん
(2008年2月8日掲載)
世論の力 
(2008年2月1日掲載)