オピニオン

近未来の音楽療法は

 時折、農作物や乳牛にモーツァルトの楽曲を聴かせて育てるというエピソードを聞くことがある。激しいヘヴィーメタルを聴かせ続けたら観葉植物が枯れたという、いかにもな噂もあるが、音の振動が生体の細胞(配列や浸透圧など)に影響を与え、それが作物の結実や乳牛のミルクの出方に影響を及ぼしたのであろう、とする推論は的外れなものなのだろうか? 音楽におけるリズムも身体のあらゆるバイタルサインと呼応しているような気がするし、ハーモニーについても明らかに身体に快適な和音と不快な不協和音とがある。何がその快・不快を身体にもたらしているのか? 生体と音環境との関係を調べると興味深い知見が得られるかもしれない。
 ところで人を失神まで至らしめる音楽として、パキスタンのカッワーリというイスラム宗教音楽の存在が一部に知られている。これはダミ声の強烈なラップ調説教に男声コーラスと太鼓&オルガンの伴奏が付くもので、徐々に高揚感が増していく構成で楽曲がクライマックスに達したとき、陶酔した信者が失神、なかにはそのまま陶酔死するケースもあるというもの。カッワーリは極端な例としても、科学的エビデンスは確立されていないものの音楽には確かに命に響く程のパワーがある。従来の音楽療法は心理的・社会的な効果を応用して健康の回復・向上をはかる代替医療であるが、将来は音の「物理的効果」が心理状態及び生体への化学作用として働く次世代音楽療法が探求・開発されていくかもしれない。3Dテレビが実現化されたように、一般家庭用の治療用音楽プレーヤーなんかがアップルかSONYあたりから出たりするかも。その時もモーツァルトは、米やリンゴを育て、ミルクの出を良くする音楽の筆頭として君臨しているだろうか。



(2011年7月22日掲載)



前後のオピニオン

1回50ドル、2回で100ドル
(2011年7月29日掲載)
◆近未来の音楽療法は
(2011年7月22日掲載)
情熱の結末――うすら寒い現実
(2011年7月15日掲載)