メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
対人恐怖症をビデオで克服
 
   日本女性は自分の身なりに大変敏感だ。ちょっとした外出にも、ああでもない、こうでもない、と迷いだし、ファッション批判能力ゼロのオヤジにまで「どう、これ、おかしくない?」などと意見を求めたりする。
 こうして苦労した服装に、周囲は一べつもくれないというのに、自分だけは、頭のてっぺんからつま先までジロジロ眺められているような錯覚にとらわれている。

 こうした他人の目を必要以上に気にする多くの日本人のシャイな性格の延長線上に「対人恐怖症」がある。精神神経学の専門分野では、対人恐怖症=社交不安症は、日本人が発見したコモン・ディシースと位置付けている。
 もちろん、この疾患は全世界的にもよく見られるもので、アメリカ国内といえども、8~9人に1人は罹患するというポピュラーなもので、10歳代半ばから20歳代前半で発症し、平均罹病期間は10~20年以上という疫学調査結果がある。
 現在、うつ病の増加が社会問題化しているが、その難治化の原因として、社交不安症の合併が強く疑われている。
 うつ病自体、それを安易に認めようとしない患者の多い中、更に、自分自身に社交不安症が存在することを隠す傾向があり、医師が診断・治療を、なかなかスムーズに進めにくい厄介な一面がある。
 「人前で発表する時に赤面に気付かれることが怖い」とか「会食をする時、箸や茶碗を持つ手がふるえてしまうのが不安」更には、硬直、発汗等に悩まされ、時に、日常生活にまで障害が及ぶ。

 最新の治療手段として、ビデオ機器を使用した「認知行動療法」なるものが人気化しており、時には、自宅で患者自身が訓練し、実質的な大半を実行できるので、少しでも心当たりのある方は、ぜひ参考にしていただきたい。
 人前でちょっとした熱感でも、患者は「自分の顔がまっ赤になっている」と誤解する傾向がある。だが、その様子をビデオで撮影し、予測したほど赤面してないことに気付く。これを繰り返し確認することで徐々に自信がつき、慣れていく。
 時に専門的観点から、高度に熟練した医療セラピストから助言を受けることが大切である。
 政府は、国際化を一層促進するため小学生からの早期英語の習得方針を決めた。日本語だけでなく英語でも、人前で堂々と自己主張できる胆力を鍛えなければならない。社交不安症などで、一度きりの人生を足踏みさせてはいけない。

(2014年4月25日掲載)
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(2014年5月9日掲載)
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(2014年4月25日掲載)
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