メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
病院食がオイシクなっている
 
   全国各地のホテルやデパートレストランが食材偽装でケチをつけている間に、マズイ飯の定番であった病院食がメキメキ腕を上げてきている。
 昔は、病院で出される食事はマズクて当然、「薬だと思って鼻をつまんででも黙って食べる」というのが、病院側、患者側双方の暗黙の了解事項だった。その上病気になると、体そのものが変化して、せっかくおいしいものであってもおいしく感じなくなってしまうのだから始末が悪い。
 しかも、まだ日も明るい夕方の5時だというのに、もう夕食がだされる。患者の気持はそっちのけで職員の勤務態勢が優先されていた。そして冷たいときている。
 かつて私は2度程入院生活を経験しているが、食後回収されるお膳はどれもこれも食べ残しのオンパレード。
 その後、心ある栄養士さんたちの研究の積み重ねにより、方々の病院でオイシイという評価が聞かれるようになってきた。
 最近のTV番組は軒並み食べ物関係満載だ。そんな風潮の中で、病院栄養士諸氏にも改善の機運が高まってきたように思える。
 中でも、都内にある東京高輪病院(旧せんぽ東京高輪病院)は抜群の評判で、患者食を院内レストランでオープンにしているが、一般人に毎日足を運ばせるほどの凄腕を発揮している。旨味が最もよくでる配合のダシを研究し、スパイスも上手に使いこなすということで、一流料亭のシェフも形なしの頑張りだ。
 その上、高血圧食あり、糖尿病食あり、腎臓病食ありと、慢性疾患持ちの情報通に大好評である。
 ところで、せっかくおいしい食事を用意しても、固形状ではうまく飲みこめない嚥下困難の患者さんも多勢いる。そこで、鎌倉市内にある聖テレジア病院は「命のスープ」を特別考案し、これが大好評、食欲のない人にも大変ありがたがられている。基本は、季節の野菜をトロ火でじっくり煮込みポタージュ状にしたものである。
 時まさに、和食がユネスコの世界無形文化遺産に正式登録され、国をあげて一層世界に誇れるグルメに磨きをかけなくてはいけない。
 病人にとって食べることは薬以上に大切な要素。たらふく食べて体力、免疫力をつけることが病気克服の絶対要件。
 病院食が一流レストラン並みのオイシサを発揮できるとなれば、食欲モリモリで毎食完食も間違いない。その先に、回復、快癒、退院がはっきり見えてくる。

(2014年4月4日掲載)
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(2014年4月25日掲載)
◆病院食がオイシクなっている
(2014年4月4日掲載)
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(2014年3月28日掲載)