メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
食材偽装より危険、医療界の偽造
 
   「申し訳ありませんでした」 深々とお詫びする光り輝く頭を何度見せつけられたことか。バナメイエビを芝海老と偽ったり、オーストラリア産牛肉を和牛と表示したりと、信頼厚き高級ホテルやデパートでの食材偽装連発にはほとほとウンザリした。
 言い訳の数々を聞くにつけ「おもてなし」の感覚が致命的に欠けていたと断じざるを得ない。食材偽装は、数年前に、また十数年前にも大騒動があった。そして今、何も変っていない。数年後にはまた白々しく同じことが繰り返されるのであろうか。
 食材の偽装は専門家にも見抜けないものが多く、我々消費者は全くお手上げ状態。最低限の情報武装に極力努力しなければならない。

 なかなか見抜けないといえば、専門度の高い医学論文の不正だ。今般、降圧剤バルサルタンの臨床成績をまとめたインチキ論文作成を巡って、医療界を騒がす大事件が勃発した。
 あまりにも恥ずべき内容のため、医学界を飛び越え社会問題にまで発展、ついには世界的な信用性まで大きく失墜させてしまった。
 日本高血圧学会は、これまで偉大な先人たちの献身的努力によって営々と築かれてきた。高血圧アカデミアの砦としての社会的信用を、今や一瞬にして失おうとしている。清廉な学会の新生を切に願うばかりである。

 ニセ論文は当然厳しく弾劾されて然るべきだし、ニセ薬の罪も実に重い。中にこめられた成分によっては落命の危険も高く、実際、偽造薬による死亡事件が多数発生している。
 偽造薬製造元のモラルは全くゼロに等しく、有効成分が含まれていない程度ならまだしも、猛毒の砒素などの致死物質が混入されているケースも多々あり、実に言語道断、極め付きの不正行為が横行している。
 こうして世界中で毎年10万人以上もの人が命を落としている。開発途上地域では、特に悪意のないドクターサイドでも、ついつい偽造品をつかませられる不幸が起きている。
 世界中に数多くの偽造薬が横行し、現在もとぎれることなく成長している。原価がゼロ同然で、莫大な利益をあげられるからにほかならない。
 違法医薬品は、全流通医薬品の10%に相当するとWHOは推定している。落命の危険を少しでも防止するため、世界の英知を結集しなくてはならない。

(2014年3月14日掲載)
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(2014年3月28日掲載)
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(2014年3月14日掲載)
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