メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
TVベッタリは長寿の敵
 
   長かったサラリーマン生活に別れを告げ、急転直下〝毎日が日曜日〟に変身。勝手気侭な生活に切り替わると、多趣味な人は、それ釣りだゴルフだ旅行だと一日一日が楽しくて仕方がない。
 だが、生憎と仕事一辺倒で邁進してきた人は、おおむね無趣味な人間が多く、せっかく明るい朝を迎えたところで、時間を持て余し日がな一日新聞を隅から隅まで舐めまわし、さらには、TVを前にして無為に過ごしてしまう。
 そんな尻に根が生えてしまいそうな無粋人間にレッドカードをつきつける医学成績が報告された。
 米・ルイジアナ大学のピーター博士らの研究で、座っている時間を1日3時間未満に短縮させることで、寿命を2年間延長できるという事実をつきとめたのである。
 なお、もしTV視聴時間のみに限定して、これを1日2時間未満に短縮できたとすれば、1・4年の寿命延長が可能となったという解析結果も得た。
 これまでにも、運動不足が糖尿病や心疾患、脳卒中を助長する悪影響因子であることは、 数多く発表され明らかにされている。
 例えば、2008年における全世界の死亡数5700万人の死因分析では、その約1割近い530万人が身体活動量が低かった人と断定されている。
 さらに、こうした運動不足による健康への悪影響の度合は、一般的不健康要因である喫煙や肥満と同等であるとも決めつけられている。
 運動不足人口が10%減れば全世界の死亡数は55万3000人減り、25%減れば130万人減ると推計されている。(ランセット12年記)
 今回の研究では、特にTV視聴時間に焦点を当てており、約16万7000例ものメタ解析を実施、そのリスクを算出したものである。
 ついついTVに釘付けになってしまう生活が、いかに不健康なものかあらためて解らせてくれる。
 なお、アメリカ保険栄養調査によると、アメリカの成人は1日の半分以上(55%)を座って過ごしていることを明らかにしている。日本でもおそらく似たりよったりの数字が産出されるであろう。
 いま日本社会は団塊世代の退職が始まっているが、その膨大な数のほとんどが、もしTV好きであったとしたら……。病人続出による医療費増大で、日本国の小さなサイフは即刻パンクしてしまうだろう。

(2014年2月28日掲載)
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(2014年3月14日掲載)
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(2014年2月28日掲載)
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