オピニオン

新型コロナで揺れる承認審査

 「前例の無い迅速な手続きで臨床現場に届くようになったことは評価している」――。日本医師会の松本吉郎常任理事は5月13日の定例記者会見で、新型コロナウイルス治療薬として「特例承認」を受けたギリアド・サイエンシズの「ベクルリー」に対してこのような見解を示した。実際に「特例承認」のための政令改正から、企業の申請、正式承認、中央社会保険医療協議会での保険外併用の了承まで、費やした期間は1週間程度に過ぎず、まさに「前例の無い迅速な手続き」と言えるだろう。
 その一方で、同じく治療薬候補の1つとして注目を集める「アビガン」だが、安倍晋三首相が記者会見で「5月中の早期承認を目指す」と発言したこともあり、早期承認に慎重な姿勢を見せていた厚生労働省も対応に追われた。5月12日には、新型コロナ治療薬の承認審査に関する通知を発出し、厚生労働科学研究費補助金などの公的な研究事業で一定の有効性・安全性が確認されている医薬品の場合、治験成績に関する資料を提出しなくても承認申請を認めるとの方向性を打ち出した。
 「特例承認」の条件を満たさない国産の「アビガン」の早期承認を目的とした通知発出である点は否めず、厚労省や業界の関係者からも「首相指示に対応した前例の無い緊急承認ルール」といった冷ややかな指摘があがる。対応に追われる医薬・生活衛生局医薬品審査管理課には、マンパワーの不足を補うため、医薬品医療機器総合機構に出向中の職員もヘルプに入っている。政府主導で進む迅速な承認審査によって、今後の薬事規制のあり方にも少なからず影響を与えそうだ。



(2020年5月22日掲載)



前後のオピニオン

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(2020年5月29日掲載)
◆新型コロナで揺れる承認審査
(2020年5月22日掲載)
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(2020年5月11日掲載)