メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
低線量被曝に対する防御力
 
   土砂、木材、そして砕石と放射能汚染問題はとどまることをしらない。そんな中、少しでも明るいニュースに出会うとホッとする。
 医療界では、放射線科医師が仕事柄、多くの放射線を被曝しているが、それ以上に、心臓病専門医は、2~3倍も多く被曝する。その専門医が、予想外の大変心強い人体能力を発揮することが新発見されたのだ。
 イタリア国立研究評議会からの昨年暮の発表で、心臓カテーテル検査を用いる治療では、低線量の放射線を継続的に曝露されることにより、本来、有害な影響が及ぶと思われた作用に対して、それに拮抗する作用と考えられる自発的変化が、細胞レベルで起こっていることを確認した、というのである。
 まず、定期的にX線に曝されるし、血中のグルタチオン(G)と過酸化水素(H2O2)濃度が上昇することを発見。Gは抗酸化物質で細胞損傷を防ぐ役割を果たす。片や、H2O2は酸化ストレスの指標として、心臓病専門医では一般人の3倍も上昇、有害作用の増大が心配された。
 しかし、その一方で、Gが約2倍に上昇、有害変化に対する防御反応、つまり、がん細胞になりうる危険細胞を排除、促進することを確認したのである。
 職業上、電離放射線に曝露される人口は、世界中で約2300万人と多く、うち約700万人は医療従事者と想定されている。
 アメリカに於ける心臓カテーテル施行件数は、93年の245万件から06年には460万件と急増した。患者サイドでは、通常行われる胸部X線撮影時の最大時では5000回分にも相当する大量のX線を浴びるとされている。
 原発事故の避難区域では、汚染土の封じこめ作戦が鋭意進められている。まず、ポリプロピレン袋に入れ、2・5mの穴に押しこめ、更に遮水シートで被い盛り土をするという方策がとられ、放射線量は98%に抑えられるという。
 こうしたきめ細かい除染を、とにかくネバリ強く進めることで、極力低線量にすることが肝要だ。そして、後のことは、慢性的な低線量なら、その影響を都合よく防御する優れた人体能力のあることを信じて、ひたすら前進するしかないであろう。

(2012年3月9日掲載)
前後の医言放大
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(2012年3月16日掲載)
◆低線量被曝に対する防御力
(2012年3月9日掲載)
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(2012年2月24日掲載)