オピニオン

かかりつけ薬剤師の「要件」

 保険者団体の健保連のHPに、読者からの医療相談を受けるコーナーがある。回答するのは、厚労省の検討会委員等にもしばしば名を連ねる市民グループの代表。先日、同欄に、「かかりつけ薬剤師にするよう頼まれたがどうすればいいか」という趣旨の68歳の女性からの相談が掲載された。曰く、5年ほど通っている薬局には薬剤師が6、7人所属しているが、パート勤務の薬剤師Aは「何を聞いても丁寧に優しく答えてくれる」ので、「Aさんが担当の時は日頃の疑問点や不安を相談するようにしている」。ところがある時、同じ薬局の「最も話しにくく、苦手なタイプ」の薬剤師Bから「自分をかかりつけ薬剤師にする同意書にサインしてほしい」と頼まれたため、「いつもAさんに相談しているので、かかりつけにするならAさんにしたい」旨を告げたところ、「Aはかかりつけ薬剤師になる資格がない」と言われ、「その薬局に行きにくくなった」という内容。
 これに対して回答は、「かかりつけ薬剤師の同意は強制ではないので、納得できなければ断ることは可能」としたうえで、「『この薬局自体をかかりつけにしているので、1人の方に限定したくない』などの理由を伝えて断り、薬局は継続して利用してはどうか」と提案している。薬剤師Bの行動に非があるとは思わないが、敢えて言えば、5年も通っている患者の心情を察する洞察力や配慮、さらには説明能力に若干、欠けていたというところか。患者は感情をもった人間であり、その人間と接するのが薬剤師の職務である以上、調剤報酬上の「要件」をいくらクリアしても、人間としての資質を磨かなければ、誰でもが機械的に「かかりつけ薬剤師」になれるほど甘くはない、という現実を端的に示すエピソードだろう。
 「かかりつけ薬剤師」を巡っては、折しも「要件」のひとつである研修認定の取得を証明する研修受講シールが、ネット上のオークションサイトで売買される事例が発見されたとして、厚労省が通知を発出して注意を促した。金で買った「要件」で、「かかりつけ薬剤師」の資格を得られると考えたのであれば、薬剤師の未来は覚束ない。



(2019年3月22日掲載)



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