メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
コーヒーブレイク
 
   119歳以上は間違いない、とされる超長寿男性がキューバで存命中という。その彼が日常生活でこよなく愛してやまないもの、それは“コーヒー”と“たばこ”と“女性”である。たばこは健康面で決してポジティブなものとは考えにくいが、女性への愛情については、いつまでも若さを保つ秘訣として十分理解はできる。問題はコーヒーの評価である。
 巷の評価では、コーヒーには賛否両論あってなかなか微妙な立場だ。
 だが、最近の医学的評価としては、コーヒーが健康面で肯定的にみなされる意見が目立って強くなってきた。大規模な疫学調査を基盤に医学的考察が加えられ、堂々学会発表の形にまで整えられたりしているのである。
 コーヒーもここまで立派に扱われるようになると、一嗜好品の立場から脱皮して、一種の健康食品としての風格が漂ってくる。
 ところで、老化現象をもたらす最大の悪者は活性酸素であることが明らかにされたが、少しでも長生きを目ざすためには、“抗酸化”をうまく生活習慣の中にとり入れなくてはならない。先般、米国化学会会議は「コーヒーは米国の食生活で最大の抗酸化作用を有する食品である」と大変なお墨付きを与えた。
 これまで、果物と野菜が抗酸化物の代表格として推奨されてきたが、今回の発表でコーヒーが抗酸化物供給源としてぶっちぎりの第1位の座を射止めてしまったのである。
 他にもコーヒーにとって有意義な報告がいくつも続いて出ている。
 ハーバード大からは、パーキンソン病の予防効果について、13万人以上という大規模調査が実施され、特に、男性でコーヒー1日6杯以上高摂取群が、1日1杯以下の低摂取群よりも発症リスクが半分も低いことを認めている。
 また、同時に直腸がん発症率の低下の可能性も示唆している。
 オランダからは、国立衛生環境研究所が、コーヒーは糖代謝を促進し、糖尿病リスクを低減すると報告した。  わが国も負けてはいない。
 国立がんセンターは、9万人強の中高年について調査、ほぼ毎日コーヒーを飲み続けている人は、全く飲まない人よりも肝がん発症のリスクが約半分になることをつきとめた。なお、この傾向はさらに多く飲む人ほど強くなるということである。
 こうしてコーヒーが健康にポジティブな発表が目立ってきたが、一方で、コーヒーにより胃ムカムカ、或いは心臓バクバクという人がいないわけではない。
 コーヒーにあまり片寄らず、ビタミン、ミネラル、繊維が豊富な果物、野菜についても、栄養面では総合的に優れていることを認識しておかなくてはいけない。

(2006年3月31日掲載)
前後の医言放大
宇宙飛行士はからだボロボロ
(2006年4月14日掲載)
◆コーヒーブレイク
(2006年3月31日掲載)
当直明けは酔いどれ診察
(2006年3月17日掲載)