|
注射の際、アルコール綿で皮膚をゴシゴシこすって消毒するのは、昔からよく見慣れた光景である。だが、注射の中でも、一番簡便な筋注のようなケースは、敢えて消毒する必要はない、とする意見が、前々から識者の間では常識となっている。「単なる慣習にすぎず、医学的には意味のないこと」と断言しているのだ。 それが証拠に、例えばアメリカでは糖尿病患者がインスリン注射を衣服の上からズボリと打ち続けていても、全く“ノートラブル”ではないか、などという。 だれの皮膚にもいわゆる常在菌は存在する。それが体内に入っても問題はないのだろうか。この疑問には、次のような明快な答が控えていた。 皮膚上の常在菌は皮脂を栄養源としており、代謝産物として何種類かの酸性物質を生成する。そのため、皮膚面は弱酸性状態(pH5・5)となっており、そこで常在菌は生育している。 もし誤って体内に入りこんだ場合、体内環境は弱アルカリ性(pH7・4)であるため、皮膚常在菌は遅かれ早かれ死滅することになる。 それに体内の免疫細胞にも即アタックされ、生存を続けるのはまず不可能である。 病原菌としてよく問題となるブドウ球菌等は、全くこの逆の性質があり、アルカリ性では増殖できるが、酸性では生育できない。これが健康皮膚面にたまたま着いたとしても、酸性状態にあるため死滅する運命にある。皮膚面では常在できないのだ。 一方、点滴注射やカテーテルなどの異物が体内に留置される場合は、はなしは全く別。特殊状況下皮膚面は念入りな消毒が必要になることは申すまでもない。 過日、点滴液剤の作り置きが常態化している病院で、死亡事故が発生、大問題となったが、これなどは皮膚面の消毒どころのはなしではなく、その前段階として点滴液そのものの中にセラチア菌が混入してしまったもので、医療行為としてまさに言語道断と言わざるを得ない。 また、同時期に採血器の使い回しも話題となった。最低限注射針は交換されており、特段肝炎感染の大発生につながらなかったのは不幸中の幸いである。 肝炎では、フィブリン糊によるC型肝炎ウイルス感染が大変不幸な薬害事故であった。 メーカーによる製造時点での作り置き血液製剤が根本的な問題であり、なんとも言い訳のきかない最悪なケースである。
|