メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
アジア人の肥満は危険度大
 
   欧米諸国では「肥満」が大きな社会問題となっている。日本ではメッタにお目にかかれないビヤダル肥満があっちこっちで見受けられる。
 少々のダイエットではとてもラチがあかず減量手術に頼ることが多く、年間20万件を超える状況にあるという。
 イギリスでは、保健サービスに所属する病院で、2000年以降10倍も激増したと報じている。アメリカでも、2005年からの2年間で約5倍増加したとのことだ。
 アメリカ国立衛生研究所では、肥満指標のBMIが35以上で合併症がある場合に手術対象となる。だが、アジアでは、比較的低いBMIでも糖尿病や高血圧を発症させやすいことから、BMI32以上で肥満手術対象とされる。
 アジアでは、糖尿病患者がいま爆発的に増加しており、その発症年齢が比較的若く、罹病期間が長くなるため、心・腎両疾患を合併するリスクの高いことが要注意事項となっている。
 中国の糖尿病事情も大変厳しい。1980年では1%の有病率にすぎなかったが、2001年では5・5%に急上昇した。ちなみに、BMI25以上の肥満傾向者は1992年に15%であったが、2002年には22%となり、明らかに肥満、そして糖尿病発症の構図ができ上がりつつある。
 日本でも、最近急激に糖尿病が増えているが、欧米人より軽度の肥満にもかかわらず糖尿病を発症しやすいのが問題。高脂肪食で筋肉や肝臓に脂肪がたまり、糖を処理するインスリンの働きが低下するためである。
 もともとアジア人は、欧米人よりインスリン分泌が半量と少なく、“易糖尿病発症体質”であることを厳しく認識しておく必要がある。
 更に気になる問題は、日本をはじめアジアの若年女性には不健康な“やせ”が広がっており、出生児体重の減少が心配される。これにより将来、糖尿病発症の高リスク群となることが強く危惧されるのである。
 糖尿病激増にどう対処すべきか。根本的には生活習慣介入による発症予防に尽きる。
 糖尿病患者が、たった10日間の教育入院で低脂肪食、歩行運動等の指導を受けると、肝臓や筋肉内の中性脂肪量がみごとに減る。食間や夜間には筋肉が、そして食後には肝臓がブドウ糖を取り込み、血糖値が顕著に改善する。
 「肝臓や筋肉に脂肪はたやすくつきやすいが、その解消も実にたやすい」。このことを強く認識し、それに向け厳しく努力することだ。

(2011年6月3日掲載)
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