メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
まばたきのテンポ
 
   一家5人が楽しくドライブしている車に、突然飲酒運転の若者の車が激突、幼い子ども3人が一瞬のうちに亡くなった交通事故は、実に悲しいできごとであった。
 飲酒運転に対して、いま社会的に極めて厳しい目が注がれ、罰則も一段と強化されているが、“飲んだら乗るな”が一向に無くならない。そこで別の角度からの対策が講じられることになる。
 最近、講演会で聞いたのだが、技術的には、運転席に酩酊者が坐った場合には、センサーがアルコールを感知しエンジンがかからないシステムが開発可能だということである。この話の直後、新聞が「飲んだら動かせない車」という見出しで、日本の自動車メーカー各社が、競ってこの技術開発を加速する方向へ動きだした、と報じていた。
 だが、さすが、そもそもの自動車開発国の欧米が既にこのシステムを実用化していたのである。飲酒運転の車が一瞬にして殺人凶器と化す危険性については、欧米の方が間違いなく先行して強く認識していたといえる。
 運転手の呼気中のアルコール検知システムを「インターロック」と呼び、アメリカやカナダの多くの州では、その導入が義務づけられ、スウェーデンでも新車への搭載が義務づけられる予定となっている由。
 日本国内でも飲酒運転常習者へは、その適用が超特急で実施されるべきである。その方向で、道路交通法はじめ関連法案の改正を早急に確立すべきである。
 交通事故では、長時間運転を強いられるトラック運転手の居眠りも大変な脅威である。これまでにも、眠気検出法が幾つか開発されたが、それぞれ一長一短があり日の目を見ていない。
 ようやく最近、この傾眠という難しい生理現象を定量的に検出する実用的なシステムが開発された。
 眠気が襲ってきた時、我々はこれを「まぶたが重くなる」と表現するが、この時の一回一回のまばたきについて、まぶたの開く速度が遅くなることに着目、新しい「傾眠検出法」を考え出したのである。
 赤外線装置を組みこんだ特殊メガネにより、眼球、まぶたの位置、眼球運動、そしてまばたきした時の振幅、速度等をモニターし、その測定値を点数化、最終評価する。
 血中のアルコール量やカフェイン量に正しく反応し、実際のトラック運転手の傾眠検出試験でもその有効性がしっかり証明されている。
 この「傾眠検出システム」にしろ、アルコール検出の「インターロック」にしろ、早急に実用化が図られ、我々庶民が安心してドライブを楽しめるようにして欲しいものである。

(2006年11月6日掲載)
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“運動器”という用語認識
(2006年11月17日掲載)
◆まばたきのテンポ
(2006年11月6日掲載)
脳画像は全てお見通し
(2006年10月27日掲載)