メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
“運動器”という用語認識
 
   循環器内科、或いは消化器外科という標示は、大きな病院に入ればよく目にするし、新聞紙上にもたびたび登場する。だが、“運動器”という用語は、本来同列語でありながら意外と馴染みがない。人生を最後まで楽しく有意義に全うするのに、運動器は極めて重要な器官であるのだが。
 もちろん、消化器も循環器も超重要臓器であることは申すまでもないこと。なんといっても、胃腸或いは心臓に重大な欠陥、障害が生じれば、即、生命を脅かしかねないからだ。その点、運動器は、たとえ何らかの障害を持ったとしても、直ちに生命にからむことはない。但し、その不都合は、人から行動の自由を奪うことになり、大切な生活機能を著しく低下させる。
 アリストテレスは「ライフ イズ モーション」と言い、人間は動いていてこそ価値ある存在であり、そこに人間の本質があるとした。人間が人間らしく生きていく上では、運動器は常に正常に機能する存在であって欲しいのである。
 時まさに、WHOは「運動器の10年」を6年前に宣言し、今年はその折り返し点に入った。運動器の健康を通して、QOLの維持増進を図るべく、世界的な取り組みが、本来ますます精力的に展開されなければならない時期にあるはずである。
 日本整形外科学会は、この世界活動に遡ること6年前、「骨と関節の日」を設定、10月8日をそれにあてた。ホネのホの字を十と八に分解したもので、親しみやすい啓蒙が図られている。
 10月8日から1週間を運動器週間として、講習会や健診、或いは「コツ(骨)コツ(骨)ウォーク」などアイデアに富んだ企画が各地で推進されている。
 日本では、運動器の領域は「整形外科」が取りしきっているが、長く続いたこの名称に対して会員の間から疑義が持ち上がった。会員の半数近くが「運動器科」支持で、最も多い。ちなみに、中国や台湾では「骨科」といい、一般大衆に大変親しみやすい名称となっている。
 男女共世界第一位の栄誉を守ってきた平均寿命が、男性については、ついに第一位の座を滑り下りることとなった。だが、トップとはわずか0・5才の差、実質世界第一級の長寿国であることに変わりはない。問題は健康寿命とのギャップにある。
 人生の終淵、本来、有終の美をもって閉ざすべき大切な極点を、5年も6年も寝たきり同然の無為な生活で過ごすようではなんともやりきれない。若い時期から運動器の健康に強い認識をもって、実りある人生を全う願いたいものである。

(2006年11月17日掲載)
前後の医言放大
パラダイムシフト-非常識化による進化-
(2006年12月4日掲載)
◆“運動器”という用語認識
(2006年11月17日掲載)
まばたきのテンポ
(2006年11月6日掲載)