メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
鉄枯渇にあえぐ女性
 
   我が国が、何かと資源に乏しいことは重々承知しているが、まさか国民の体の中までそれが及んでいるとは。特に、女性の体の中は鉄分がからっきし欠乏状態。
 体内貯蔵鉄量の調査(03年)で、月経のある女性、つまり元気溌剌たる女盛りに於いても、その半数近くが鉄欠乏状態であることが明らかとなり、しかも外国女性との数値比較で大きな隔たりのあることが厳しく指摘された。
 つまり、アメリカの欠乏者は10%にすぎないし、イギリスでも20%、ノルウェー15%、スペイン11%という状況。大和撫子のずば抜けた鉄枯渇は疑いの余地がなく、妙なところでお淑やかさを発揮している。
 しかも、昨今はその傾向が強まり、献血できない女性がますます増加、献血者減少による血液不足は一層深刻化している。
 昔は八頭身、今では九頭身のファッションモデルを美の象徴としてやせ願望に走り、ダイエットに狂奔する現代女性の1日平均鉄摂取量は7・9mgで、基本必要量とされる12mgにはほど遠い。諸外国が設定している15~18mgとはまるで比較にならない。
 こうして今でこそ、日本人女性をはるかに陵駕するほどの鉄保有国民になった諸外国でも、かつては現在の日本のように低貯蔵時代を経験している。そしてある時、欠乏状態の危機に目覚め、予防戦略を国家課題として最善と決行、みごと大改善に成功したのである。
 その国家施策とは、主に小麦粉に鉄を添加するものであり、他に米やトウモロコシ、魚醤に添加することもある。
 アメリカでは60年以上も前から小麦粉100g当たり2・64mgの鉄が加えられ、イギリスでは1・65mgが加えられる。女性の鉄摂取量が76年には10・7mgだったのが、91年には13・4mgへ増加した。  スウェーデンでは、添加量は当初は3mgであったが、5mg、6・5mgと増加され、貧血者の減少にみるべき成果をあげた。
 一方、日本ではどうしたことかこのような施策が全くとられない。日赤の苦悩が全く眼中になきが如き野放し状態で、しかも、「健康日本21」にも全く盛り込まれておらず、全く理解に苦しむ。
 妊娠、出産に際しての鉄はことのほか重要である。単に少子化改善を叫ぶだけでなく、心身共に健全な子供を得てこその将来であり、適切な対策の実現をもって未来ある日本を心強く見つめたいものである

(2006年12月18日掲載)
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(2007年1月12日掲載)
◆鉄枯渇にあえぐ女性
(2006年12月18日掲載)
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