オピニオン

医療従事者の安心

 少し前だが、とある講演会で産科医の不足を助産師の職能を活用することで成功した事例について話を聞く事が出来た。労働環境の悪さや訴訟リスクの高さなど様々な要因から産科勤務医が減少しており、更なる環境の悪化を招いているという。そこで、演者は助産師に注目し、従来の分娩方法の見直しからはじめ、お産に関するある程度の裁量を助産師に与えた結果、当該病院の産科医療そのものや病院経営など多面に渡り好影響を与えているそうだ。
 この事例で最も重要なことは、医師が助産師に責任を押し付けているのではなく、医師、助産師等がそれぞれ持つべき責任を明確化し、支えあい、病院全体でバックアップしているということ。つまり、すべき事をしてもなお発生した不測の事態における安心を担保したということになる。職特有のリスクを考えれば、安心の担保がなければ「責任」は単なる重荷でしかない。安心という担保があればこそ「責任」は“やりがい”に変わる。
 医療従事者が安心して医療を行うために、独自で取り組むのには限界がある。国が、医療に関する責任を関係者に丸投げしてしまい、重大な事態が起きても「知らぬ存ぜぬ」では良い結果を生み出さない。現に、多くの医療関係者はすっかり疲弊してしまい、医療の崩壊は始まった。「診療報酬を大幅に上げれば良い」という単純な話ではない。医療従事者が安心して医療を行える環境作りについて、国全体で真剣に考える必要がある。



(2008年3月7日掲載)



前後のオピニオン

自分が患者だったら・・・?
(2008年3月14日掲載)
◆医療従事者の安心
(2008年3月7日掲載)
浸透しているか? がんの標準治療
(2008年2月29日掲載)