オピニオン

アンタッチャブル

 遅ればせながらフランス映画『最強のふたり』(原題は“Intouchables”)を観た。公開から2か月近く経つにも係らず、都心の映画館はほぼ満席。上映館数は全国で100軒を超えたというから、フランス映画としてはかなりのヒットだろう。ストーリーはスラム街出身の前科者の黒人青年が、ひょんなことから重度の障害を持った大富豪の介護役を務めることになり…という実話に基づくもの。性格も境遇も違う2人だが、お互いに本音で接するうちに不思議な信頼関係が生まれていく。
 主人公が重度の障害者という“アンタッチャブル”なテーマだが、メッセージ過多な社会派作品やお涙頂戴的なヒューマン・ドラマにはならず、ユーモア満載のコメディになっていたのが良かった。日本人の感覚からすればかなり際どい差別スレスレのジョークが多いが、嫌味はなく、上映中の観客の笑いは明るかった。世界的なヒットも納得の清々しい作品だったと思う。
 さて、フランス人のユーモアといえば、とあるテレビ司会者がサッカー日本代表のキーパーに腕が4本ある合成写真を見せて「福島(の原発事故)の影響」と揶揄した件を思い出す。確かに笑えないジョークだが、国ごとに笑いの感覚が違うことを考えれば、この手の揶揄はどこにでもありそうな気がする。しかし今回、テレビなどを見ていると、思いのほか過剰で粘着質な反応も多かったように思う。尖閣諸島問題などでピリピリしていたせいもあると思うが、原発問題に潜む様々なものが、今の日本にとってはアンタッチャブルということなのだろう。
 しかしつまらないジョークがもとで国際問題に発展したりするようでも痛々しい。放映した局は既に謝罪もしたことだし、あまり粘着質になってもさらに損をするだけ、という気がする。



(2012年10月26日掲載)



前後のオピニオン

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(2012年11月2日掲載)
◆アンタッチャブル
(2012年10月26日掲載)
「所有権」めぐり議論白熱
(2012年10月19日掲載)