オピニオン

言えなかった一言

 私の人生に影響を与えたものを挙げると、間違いなくビートルズが上位に来る。ギターには触ったこともないが、ビートルズがなかったら今の私はいないだろう。
 初めて聴いたのは小学6年のころだった。それまでは、J-POPやクラシック音楽しか聴いたことがなく、「ロック=ただのうるさい音楽」だと思い込んでいた。しかし、ビートルズは全く違った。スピーカーから飛び出してきそうなくらい勢いがありながら、耳に心地よく、一瞬でとりこになった。「なんだこれは!」大発見だと思った。しかし90年代後半、ビートルズや洋楽が好きな同級生は、私が知る限りいなかった。周りの友人がJ-POPの話をしているなか、明らかに少数派の私は、黙っているしかなかった。「ビートルズが好き」。その一言が言えなかった。
 あれから20年近くたった今、音楽とは何の関係もない薬業界で実感することは、いろいろな人の立場を想像しなくてはいけないということだ。たとえ患者を助けるための良い制度があったとしても、それが使いづらかったりすれば、宝の持ち腐れだ。世の中には本当にたくさんの病気があり、患者はそれぞれ全人口のなかの少数派になってしまうので、役所には本音が届かないという問題もあるのかもしれない。でも、少数派だからという理由だけで、その人の意見の価値が低くなることはないと思うし、思ったことを言う権利も持っているはずだ。
 こんなことを考え、今こうして記者の仕事をしているのは、あのころ言えなかった一言が関係していると思う。



(2014年6月13日掲載)



前後のオピニオン

知ってましたか「6・26国際麻薬乱用撲滅デー」
(2014年6月20日掲載)
◆言えなかった一言
(2014年6月13日掲載)
彷徨うHPVワクチンの是非
(2014年6月6日掲載)