岸本由次郎  
 
医言放大
 
飛行機と病気
 
   放射線の恐怖は、何も地上ばかりではない。大空を優雅に羽ばたく飛行機にも、放射線の一種・宇宙線が遠慮なく降り注ぐ。
 飛行機乗り、或いは飛行機を頻回利用する者にとっては、当然被曝リスクが高まる。
 若い女性が憧れるスチュワーデスで5年以上の勤務者は、乳癌発症率が5年未満の者より5倍も高いという。DNAへの悪影響は必至であり、当然妊娠時は格段の配慮が肝要、華やかさの裏側には苦労も多い。
 最近は、エアバスやボーイングの新型大型航空機の出現で、時には20時間もの長時間飛行も。心臓や肺、或いは血管等になんらかのトラブルを抱えている人については、もともと動脈酸素分圧が低下状態にあることから、特段の注意が必要。飛行中の気圧低下が重なると、酸素分圧が一層低下し、病状の悪化を招く。
 この最も解りやすい例としては、比較的患者数の多い慢性閉塞性肺疾患(COPD)をもつ旅行者の18%が、機内で実際に呼吸困難の症状を訴えた、というデータがある。
 また、機内の気圧低下に伴い、人体は体内のガスが30%も膨張することが判っており、たとえ、健康体であっても、時にはけいれんが起きたり、耳に損傷が生じたりすることがある。
 特に手術を受けたばかりの人は要注意だ。大トラブルを防ぐには、術後少なくとも2週間の間隔は空けた方がよい。
 更に機内発生トラブルとして特に気をつけたいことがある。
 一つは、長時間閉鎖空間での「感染症伝播」のリスク。最近は、新型インフルエンザが特に話題となったが、他にも麻疹、結核、食中毒、ウイルス性腸炎、天然痘等でも、過去集団発生した例がある。
 パンデミックのリスクがある状況下では、飛行回数を減らすことが、感染の拡大を防ぐ実質的効果となる。事実、あの忌まわしき9・11テロ大事件後、一時飛行回数が大幅に減ったが、その間、アメリカ国内での当時のインフルエンザ流行のピークが13日遅くなったとの事例がある。
 また、今やだいぶポピュラーにもなっている「静脈塞栓」も大いに気をつけたい。
 気をつけるのは飛行4時間ぐらいから、最大リスクは8時間を越える頃からだ。通路側でないと動きが少なく、高頻度で塞栓症が起きやすい。常識的な対策は以下の通り。
 水分摂取、アルコール・カフェインは控え目に、姿勢を頻繁に変える。ふくらはぎの定期的運動、時に弾性ストッキングの着用等々が塞栓予防によいとされる。

(2011年12月9日掲載)
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治療管理はゆるめがいい
(2011年12月23日掲載)
◆飛行機と病気
(2011年12月9日掲載)
新世紀医師気質
(2011年11月25日掲載)