メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
うつ病治療、成否の分かれ目
 
   うつ病は紛れもなく慢性疾患に位置付けされる。「うつ病です」と、はっきり診断されたからには、当然長期戦の覚悟をしっかり固めなくてはいけない。
 でなければ、近代医療の進化技術のもと、折角「治る病気」になってくれているのに、自らの無責任な受診態度で、みすみす「治らない病気」に戻してしまう。うつ病の本質は、ちょっとやそっと薬を飲んだからといって、すぐに改善だの悪化だのと自己判断できる性格の病ではないことを肝に銘じなければならない。
 超短期薬物療法で、一時的に改善がみられても、薬をやめれば悪化してしまうことがいくらでもあるし、逆に、悪化とみられても、通常は一時的なもので、その薬物を継続服用することで、次第に改善していくことがしばしばみられる。
 (株)医療情報総合研究所なる施設が「抗うつ薬の治療継続率」を調査(2011年)しているが、「症状が改善したから」とか、「服用継続がなんとなく心配」とかの自己都合で、つまり、医師には無断で服薬を中止してしまう患者がほぼ50%いたという。
 だが、特徴的なこととして、1か月間なんとか持ちこたえた患者は、その後の服薬脱落がぐんと少なくなっている。
 そこで、うつ病治療を成功させる要因として考えられるのは、治療を開始するに当たっての患者・医師間の意思疎通の大切さである。とにかく最低どのくらいは薬を飲み続けなければいけないか、そのメドをはっきり双方で確認、共有しておかなければいけない。
 うつ病の治療機関に関する一般的なガイドラインは、初発の場合は通常2~3か月で寛解がみられるようになり、更に6~8か月間服薬維持が原則とされている。
 うつ病は、他の慢性疾患と違って、血糖値や血圧の値等の検査値という客観的指標がなく、患者・医師間の信頼関係の構築がすこぶる重要な治療条件となる。
 「患者がいったん了承した治療法を、ほとんど医師の監視なしでも継続する度合」を、専門用語で「アドヒアランス」といい、「アメリカ精神医学会」のガイドラインには、なにより第1にこのアドヒアランスへの配慮の大切さをうたっている。
 うつ病治療の成否は、まさにこの医師指示遵守度にかかっており、寛解、治癒に導く運命のカギであることを、患者はしっかり理解しなければならない。

(2013年12月6日掲載)
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