メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
お風呂でのスキンケアのあり方
 
   お風呂で体を洗うのに、石けんを使うのは昔から常識となっているが、いつの頃からか「なるべく使わないほうがいい」なんていう意見がスキンケアの専門家サイドからでたりして混乱している。
 汚れがよほどひどければ別だが、洗浄剤を基本的にはあまり使わない方がよいと主張する根拠としては、次のようなことがある。
 肌着で被われている部位の皮膚の汚れは、汗や皮脂、角質の剥離成分、つまり垢など水溶性のものがほとんどで、手指や頭など以外はわざわざ洗浄剤を使わない方がよい、もしも体臭が気になるようなら、その時に軽く利用すればよい、という意見だ。
 さらに、ヒトの皮膚は常在菌によって皮脂が分解されて弱酸性に保たれており、黄色ブドウ球菌や化膿レンサ球菌などが増殖しにくい、つまり皮膚炎が基本的には起きにくい状態になっている。
 そんな健常な皮膚環境に対して、洗浄を目的として界面活性剤を用いることは、保湿に必要な皮脂や皮膚常在菌をわざわざ落としてしまうことになり、肌を傷つきやすくし、アレルギー感作や細菌感染のチャンスを増大させる元となる。
 それを裏付けるような意味合いで、アメリカ皮膚科学会では、アトピー性皮膚炎の患者に対するスキンケアの方法について「洗浄剤は一般的には使用せず、必要な時のみ利用する」としている。
 原則的に洗浄剤を使わないことに対して、アトピー患児などが最初は抵抗感を示すことがあっても、しばらくして皮膚症状の改善が実践的に得られ自信を深めている。
 だがその一方で、興味深いことに、重度の皮膚炎にこそ石けんをしっかり使用すべきだと主張する専門家がいる。「重度の皮膚トラブルのある場合には、洗浄剤をしっかり泡立てて洗い、汚れを落としてから保湿薬を塗った方が症状が早く改善する」というのだ。
 ただここで誤解しないよう注意したいのは、皮膚状態が正常な一般人のケースとしては、洗浄剤の使用・不使用は大差がないということ。どうしても洗浄剤を使用したい時には、ボディソープよりも石けんをすすめる意見がスキンケア専門家の間には多い。
 石けんはアルカリ塩であり、弱酸性状態の皮膚とは中和状態となり、界面活性剤としての効果が失われるからよいという理屈だ。
 一方、ボディソープは合成界面活性剤を用いており、その効果が薄まりにくく、皮膚バリアを低下させる心配があるのですすめにくいという。

(2014年5月23日掲載)
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(2014年6月6日掲載)
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(2014年5月23日掲載)
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(2014年5月9日掲載)