オピニオン

三丁目の夕日と美しい国

「隣近所から足りないしょうゆを借りたり、作りすぎた夕食のおかずを分け合ったり」「すれ違えばあいさつや井戸端会議をする」――昨年映画化された人気漫画「三丁目の夕日」に描かれている昭和30年代の下町の暮らしだ。この漫画、思わぬことから注目を浴びている。厚生労働白書2006年版や、安倍晋三氏の著書で取り上げられたのだ。白書は、「持続可能な社会保障制度と支え合いの循環」がテーマ。背景には、個人化が進んだ結果、家族や企業、地方といった旧来の共同体が、セイフティーネットとしての機能を失っているとの認識がある。
 そこで、古き良き時代の例として「三丁目の夕日」を紹介し、「この漫画や映画が支持されていることは、温かい近所付き合いなど地域社会とのかかわりを求める人々が少なからず存在していることを示唆している」と解説。子育て世代の30代の男性の5人に1人が週60時間以上働いている現状の見直しを求めている。働き方を変え、家族と過ごしたり地域社会とのつながりを持つ時間を増やし、地域社会の活性化を図るべきという主張だ。安倍氏も著書「美しい国へ」で、映画「Always・三丁目の夕日」に触れ、地域社会の大切さを強調している。
しかし、白書には、将来の仕事と余暇のバランスについて、77%の人が「余暇中心」を理想としているものの、62%が「仕事中心」になると予測しているとのアンケート結果も載っている。新たな紐帯をつくるのは、なかなか難しそうだ。



(2006年9月22日掲載)



前後のオピニオン

日医のジェネリック医薬品調査
(2006年9月29日掲載)
◆三丁目の夕日と美しい国
(2006年9月22日掲載)
次期政権下での社会保障の潮流
(2006年9月15日掲載)