メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
積極的治療が第一選択か
 
   高齢社会を反映して、今では後期高齢者の域に入っても、さほどの抵抗感なく手術が行われている。
 京都府立大・消化器外科では、これまで80才超の胃癌手術も多数経験、80才未満の成績と比較しても、生存率になんら有意差のないことを確認。つまり、術後平均余命は、80~84才患者で9・8年、85才超で6・0年と一般人と匹敵するものだった。
 また、愛知県がんセンターでは、同じく胃癌手術で、75才前後二群での治療成績を比較、やはり有意差がなかったと発表している。
 これまで通例的には、75才以上の高齢者は臨床試験としては対象外の扱いだった。だが昨今の成績をみると、超高齢でも全身状態の慎重な評価により、積極的治療が十分開けてきている。
 一方、加齢と共に確実に増える前立腺癌の治療となると、一概に積極的にアタックすることが最善とはいいきれない。
 70才以上の男性3人のうち1人が発症する状況にあるが、その初期は無症状、しかも進展速度ものろい。発見されぬまま亡くなり、解剖したら見つかった、というケースが少なくない。いわゆる天寿癌といわれるものであり、苦しまずにあの世に行ける最高の死に方ともいえようか。
 それが、最近では診断方法が高度化し、早期に発見できる可能性が向上した。ただこの時点でどういう選択をするかが問題だ。早期に見つけられたのだから積極的に手術して取り除くとか、ジャンジャン放射線をかけるとか、と単純にいかないのが早期前立腺癌対処法の難しいところ。
 現実的には、無治療(待機療法)で観察するのも極めて有望な選択肢となっているのだ。期待余命、或いは健康余命を、自らの持病等と考え併せ、積極的治療が絶対的第一選択とは言いきれないのである。
 また、高齢者なるが故に、手術断行を安易に選択できない重要な要素もあり、併せて考えてみなければならない。
 「術後認知機能障害」発現の心配があり、その頻度は7~26%と大変幅の広い報告がされている。今後、高齢者の手術がますます増加すると確実視されており、つれて術後の認知機能障害の増加が心配される。術後痴呆状態になるのでは何のための手術か疑問。高齢者の手術強行については異論も増えてきて、重要な社会的疑問として提起されている。

(2011年11月11日掲載)
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(2011年11月25日掲載)
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(2011年11月11日掲載)
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(2011年10月28日掲載)