メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
がん死家族フォロー「遺族外来」
 
   最近、囲碁仲間のS氏が前立腺癌を患い放射線療法を始めた。「焼けるように痛い」という副作用にまつわる闘病生活の凄まじさをつぶさに聞かされ、なんとも慰めようがない。
 昨年亡くなった著名な免疫学者・多田富雄博士が、友人と全く同じ境遇で苦しみ抜き、その様子を、著書「寡黙なる巨人」で赤裸々に述べている。
 「放射線障害の症状は耐えがたいもの」と言い、「悶絶するような苦しみ」、「毎夜が地獄の責め苦」と続く。本人同様、見守る家族もただハラハラと、たまったもんじゃない。
 物理的に尿道が遮断されている尿閉状態に効く薬はなく、カテーテル(管)を尿道に差しこんで強引に排尿をはかるしかない。
 「痛いことおびただしく、時には出血もあり、20分ぐらい格闘してやっと排尿できます。連日の熱帯夜に、2人共(妻共々)汗びっしょりで苦闘するのです」
 そして、併発した癌性胸膜炎により、ついに凄まじい闘いの幕は降ろされた。
 我が国では、年間30万人以上ががんで亡くなっている。1人が亡くなると、周囲の5名が強い影響を受けるとされ、毎年都合150万人以上が苦悩していることになる。
 死別は、特に配偶者にとっては最も大きなストレスとなり、遺族の心と身体に時に耐え難い悪影響を及ぼす。
 特に高齢者におけるうつ病発症の危険因子として“死別”は最大要因とされ、その有病率は死別後13か月で16%と大変高い。死別後1年以内は自殺率が高まるので特段の注意が必要である。
 新たに身体的疾患を発症してしまうことが多く、また持病のある人には病気の悪化が指摘されている。
 つまり、家族は「第2の患者」として格別注視しなければいけない。こうして、自然発生的に登場したのが「家族外来」であり、「遺族外来」である。
 この時のストレスケアの介入は「後治療」と呼ばれる。
 「辛い出来ごとの後になされる適切な援助」を意味し、遺族の後遺症をできるだけ少なくするようリードし、長生きをはかることを目的とする。

(2012年4月20日掲載)
前後の医言放大
超高齢社会のイロー・エレジー
(2012年5月11日掲載)
◆がん死家族フォロー「遺族外来」
(2012年4月20日掲載)
人間は笑うことが特権
(2012年4月6日掲載)