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血糖値、或いはコレステロール値などといった検査数値は、おおむね「低ければ低いほどいい」と、昔から言われ続けてきた。 だが、最近は患者側の条件、つまり高齢の域に入ってきたとか、病態の様子によっては、検査数値の基準を無理やり低くする方式はやめた方がよい、という柔軟な考え方が急激に広まってきた。 厳しさのあまり、低血糖を招いたり、血圧を下げ過ぎたりして、転倒や骨折につながりかえって面倒なことを引き起こしてしまうケースがチョクチョク発生したからである。 これまでの杓子定規的方式を、はっきり大きく見直すきっかけとなった研究がある。厳格治療と緩徐治療、それぞれの方式を、効力面で比較検討したテストの結果、まあまあの基準設定で悠然と治療を進めた方が、これまで理想的数値に捉われた厳しい管理方式より良い治療成績が得られたのである。 対象は、高血圧と脂質異常の合併患者群。目標血圧を上120/下80未満、そして目標LDLコレステロールを80未満にそれぞれ定めた厳格群と、血圧140/90未満、L・コレステロールを100未満に定めた緩徐群の2群比較だ。結果、厳格群の方が死亡及び心血管疾患等の発生率が高く出てしまったのだ。 これらの要旨は、2011年8月猛暑の中開催された「日本循環器学会」で報告されたものだが、これまでの常識を覆す結果に、さすがに会場を埋め尽くしていた専門医から一様に驚きの声があがったという。 厳格な管理方針のもとで治療を受けてきた患者の中には、それにより死期を早めたケースが数多くあったことが予想され、学会には そして専門医には大いなる課題がつきつけられたことになる。 こうした疑問含みの雲行きは、実は数年前より密かに漂い始めていて、国内外からいくつもの関連データが発表されていた。 例えば、その中の1つ「アコード試験」では、糖尿病患者について、基本的な検査項目であるHbA1c値を6%未満に厳格にこだわった治療群が、7%台でもよい緩やかな基準で管理した患者群より、総死亡率を22%も押し上げてしまった、というデータが公表されていた。 高齢者は、低血糖の症状に気付き難く、一気に重症低血糖を引き起こす危険性がある。これがまた認知症発症の引きがねになるともいわれ、ますます厳格管理は、特に高齢者にはそぐわないという結論が引きだされている。
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