メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
対人恐怖をなくす方法
 
   人前に出ると強い苦痛を感じる。ついにはそれがもとで、体のどこかに妙な症状まで現われる。結果、人前に出るのを避けるように。
 こうした状態にまで進展すると、当然、日常生活にも支障をきたすこととなり、ついには精神疾患が発現することも。「社会不安障害」或いは「社会恐怖症」と言われるものだ。
 こうして要治療状態にまで進んだ患者は、少なくとも300万人は下らないとされ、特に働き盛りの30才代に集中的に発症しているというのが大変気になるところ。というのは、それにより失われる労働損失額が甚大で社会的に大きな影響を与えるからだ。
 「対人恐怖症」「あがり症」などと気軽にすませるうちはいいが、強く進んで明らかに病的状態になると深刻だ。
 性格的な問題として、一般的に「スピーチ恐怖」とか「視線恐怖」とかが話題となるが、通常は、何故かこれを体験することで次第に慣れていく。
 だが、単純な性格改変で収まらない障害となると、しっかりとした治療態勢が必要となる。幸いなことに、今では専門医の然るべき治療、つまり、薬物療法と認知行動療法なるものを併用でしっかり受ければ完全治癒が期待できる。
 しかも、一定期間かけて治療できたあとは、薬剤の服用を中止しても再燃がほとんどみられなくなる。確かな治療により、「人生が変わった」「本来の自分が発揮できるようになった」などと明るいコメントが聞けるようになればもうしめたものである。
 ただ問題は、受診率が極端に低いこと。強度のあがり症でもこれを性格の問題だと勝手に自己診断してしまい、ことをますます深刻化させ、うつ病更には自殺へと自ら追いこんでいく危険性がある―本人の自覚がないのがはなはだ辛い。
 時まさに不況の最中。患者の増大が懸念される。早期診断・早期治療で完全治癒が期待できるのだから、一時的な社会不安障害に陥っても、積極的に専門医の門をたたいて欲しいものである。
 最近、「対人恐怖改善ビデオゲーム」なるものがカナダで開発された。一週間毎朝ゲームを実行することで、ストレス関連ホルモン・コルチゾルを17%低下できた、と公表している。
 いずれ商業化されるだろうから、あがり症の人はぜひ試してみたらよい。

(2011年4月22日掲載)
前後の医言放大
全治・完治・寛解・治癒
(2011年5月6日掲載)
◆対人恐怖をなくす方法
(2011年4月22日掲載)
医師引退のタイミング
(2011年4月1日掲載)