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「最も健康的な精子を作り出す男性は?」と問われれば、誰しも20代の中肉中背でエネルギッシュなスポーツマンタイプあたりを思い浮かべるであろう。そんな健康パパばかりなら何も心配することはないのだが。 現実の世は、結婚年令の高齢化が結構多く見られ、初めての子のパパの年令が40代というのも珍しくない。中には「お孫さんですか」などと言われて、舌打ちするケースも。 気になるのは、こうした高齢男性の、やや勢いの衰えた精子による妊娠、出産が何ら問題がないかどうかということ。或いは、中年男性で今はやりのメタボリックがかった肥満タイプならどうなんだろうか。 そんな素朴な疑問に応えてくれる国際的大規模研究が最近実施され公開された。アメリカ・コロンビア大・精神科によるもので十分信頼にたる立派な業績である。結論はこうだ。 「男性パートナーの年令が高くなるほど、流産の確率が漸進的に上昇する」 30才以上の場合では、25才未満である場合と比べて流産の危険が3倍近くも高まるといい、それはパートナーの女性の年令とは特に関係がなく、また、糖尿病持ちであるとか、タバコを喫うとか喫わないとかも無関係で、年令以外の因子からは説明できない独立した条件とされている。 発表の中で特に気になるのは、高齢男性ほど統合失調症の子が生まれやすくなるということ。高齢男性の精子は異常が多く、出生異常を伴う可能性の高いことは、これまで他の研究からも指摘されている。こうした事実を背景に、アメリカ生殖医学会は、高齢父親の子は遺伝的異常リスクが増加するとの理由から、精子ドナーの年令上限を40才までと限定している。 また、別の研究では男性の肥満度と妊娠との関連について大規模な解明がなされた。 結果は「男性体重が約9kg増えるごとに不妊率が約10%上昇する」というもの。ホルモン上の問題と併せて、精液の質も肥満と共に劣ることが確認されている。肥満予防は、自らの健康追求と併せて、我が子の健康を確保する上からも心すべき事柄といえよう。 これまで妊娠に関する研究では、母親側の視点にたつものが圧倒的に多かった。例えば、過体重ぎみや肥満の女性は妊娠しにくい傾向があるとか。 当然、妊娠、出産そのものの大イベントは女性が主演者であり重視されて然るべきである。だが、歴史上の数々の名作が示すように、名助演者がいてこそ光を放つもの。男性パートナーも相当高程度に、この種の研究対象には登場しても何らおかしくない。 時あたかも名馬ディープインパクトの突然の引退劇があったが、それが極めて体力的に時宣を得たものであることを申し添えたい。
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