メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
魚の適正摂取
 
   海辺に比較的近い商家の出である私は、毎食のように食卓を彩る魚によって育てられた。その朝一番に漁れたこれ以上にない新鮮な獲物を自転車で必ず届けてくれる浜のオジさんがいて、煮たり焼いたりさまざまに工夫する料理上手の母親のお陰で、私は根っからの魚大好き人間になった。
 魚油は有用な脂肪酸を多く含み、その多種多様な生理活性によって生活習慣病を予防することが広く知られている。つまり、中性脂肪酸の低下、不整脈の発生防止、血管内皮細胞の機能改善、血栓の生成防止等々、その有能なることは枚挙にいとまがない。
 こうした有用性の高い生理作用は、アメリカお得意の大規模疫学調査によって、死亡率の大幅低下に明瞭につながっていることが証明されている。
 この大調査は有名なものが2つある。
 その一つは、2万人の男性内科医師を対象に17年間も観察し続けたもの。「魚を比較的多く食べていたグループ」は、「あまり食べないグループ」より、突然死の相対リスクが90%も低いことを明らかにした。
 ちなみに、日本人の脂肪酸の平均血中濃度は、この調査の“比較的多食群”より3割以上も高いということで、我々日本人が如何に魚に慣れ親しんでいるか、あらためて思い知らされる。
 もう一つの大調査は、女性看護師対象の16年間追跡のデータである。これもほぼ同様の結果で、魚を「週5回以上食べていたグループ」は、「ほとんど食べていなかったグループ」より、虚血性心疾患を中心として死亡率の相対リスクが45%も低いことが明らかとなった。
 こうして、魚油の有用性が次々と明らかにされているが、外国人の血中濃度レベルは日本人よりも格段に低い。そこで、逆にはたしてどこまで血中濃度を高めてもいいものか興味を引かれる。結論は、やはり“過ぎたるは及ばざるが如し”であった。
 つまり、魚油の摂取過剰は、その副作用として、出血時間の延長、コレステロールの増加、血糖値の増加等の障害の発生することが明らかにされている。
 子どもの頃、3食魚漬けといった生活が結構続いたが、それでも過剰摂取によると思われる副作用で苦労した覚えは一度もない。魚好きといっても極端に走らなければ特に心配はないと判断して差し遣えないであろう。
 現在、日本人の魚摂取量の平均値はアメリカ人のほぼ10倍にも達しており、十分なレベルにある。最近は魚に水銀等の重金属や、ダイオキシン、PCBが含まれていることも話題となっており、私のような魚チョウ大好き人間は、ホドホドに留めておいた方がよいのかもしれない。

(2006年1月27日掲載)
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映画の中の喫煙
(2006年2月17日掲載)
◆魚の適正摂取
(2006年1月27日掲載)
子どもを愛せない「産後うつ病」
(2006年1月13日掲載)