オピニオン
治療理解を妨げるもの
過日開催されたプレスセミナー。テーマは「潰瘍性大腸炎治療における医師と患者の意識比較」。この手の意識調査の場合、「患者のほとんどが治療に満足していない」「患者の半数以上は医師の指示通りに服薬していない」などとした結果から、医師・薬剤師と患者とのコミュニケーションの重要性を強調したり、あるいはもっとあけすけに「2つの薬を一度に服用できる配合剤に切り替えることが服薬アドヒアランス向上の方策として有効」などと誘導したりするのが典型的なパターン。ところがこのセミナーで東京医科歯科大学・渡辺守教授が発表した調査の結果は、同氏いわく「驚きの結果」となった。
「驚き」の第一は、患者の7割が現状の潰瘍性大腸炎治療に「満足している」と回答したこと。それだけではない。「患者の6割は医師に対して不安、不満をもっていない」「患者の7割は医師に伝えたいことを伝えることができている」「患者の7割は処方通りに服薬している」など、コミュニケーションの面でも、服薬アドヒアランスの面でも、ポジティブな回答が並んだのである。難病のなかでもっとも患者数の多い疾患であることや、自民党の安倍晋三総裁の病歴告白も、疾患啓発の後押しになったのかも知れないが、「医師が考えるよりも患者は自立している」(渡辺教授)という側面を垣間見る貴重な機会となった。医療の進歩とともに患者の側も少しずつ、進化しているようだ。
さて、ある生活習慣病治療薬のスイッチOTC化に日本医師会が物言いをつけている。「生活習慣病をOTC薬で対処するのは非常に危険。(患者・生活者は)医薬品の服用で安心してしまい、食事や運動にも配慮しなくなり、結果として重症化に繋がる恐れがある」というのがその言い分。もちろん、患者がすべてを自己管理できるとは思わない。しかし、前述のような調査結果を前にすると、患者の理解度を過小評価する医師の時代錯誤的先入観こそが、治療理解を妨げる一因のような気がしてならないのだが、どうだろう。
(2012年12月21日掲載)
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◇薬剤師が医師からの信頼を得るために (2012年12月14日掲載) |