オピニオン
「日薬学術大会の課題と方向性」
日本薬剤師会は10月12日から13日の2日間にわたって、第58回日本薬剤師会学術大会を京都府の国立京都国際会館で開催した。来場者は学生参加者を含めて約8300人で、目標として掲げた9000人にはあと一歩届かなかったという。大会運営委員長の河上英治・京都府薬会長は「黒字化ラインは超えているが、PECS(日本薬剤師研修センター 研修認定薬剤師制度)の取得運営については課題が残った」とし、PECS取得希望者への事前アナウンスも含め改善点を挙げた。昨年の埼玉大会では、広告関連を中心とした運営費に多額の費用が生じ、最終的な赤字となったことで、日薬が補填することが話題になった。かねてから日薬学術大会はその方向性に関して迷いが生じてきた経緯がある。学会ではなく、「学術大会」と名乗っているところは、医療関係団体では少ない。河上・大会運営委員長も大会当日の会見で「目標に届かなかった。現時点で考えてみると、アカデミックな内容に偏り過ぎたのかもしれない」と打ち明けた。印象的な日薬学術大会としては2008年の宮崎大会が挙げられる。宮崎へのアクセスは、九州新幹線が開通する前であることから飛行機が中心。加えて宿泊施設もメイン会場から大きく離れた宮崎駅周辺のみで、お世辞にも「参加しやすい大会」ではなかった。しかしながら、宮崎大会には7000人以上が参加し、地方都市での開催としては過去最高の盛り上がりを見せたといっても過言ではなかった。盛況のけん引役は当時の東国原英夫知事で、特別記念講演で登壇することを早くからアピールしていた。当時、同氏の講演には通路席から立ち見まで、会場のキャパシティー限界まで人が押し寄せた。時の人の講演に自然と足が向いた結果と言えよう。「イベント性を高めるか、薬剤師として権威ある学会を目指すのか、率直に言って難しい」。日薬会長経験者は日薬学術大会の今後についてこのように展望した。京都大会は同時期に開催されていた大阪・関西万博や訪日外国人の増加の影響もあり、宿泊費の高騰も二の足を踏む要因となった。いずれにせよ、2026年は新潟、27年は福島、28年は熊本と地方開催が連続する。大会運営費用もさることながら、そこにかける人的資源も地方都市では大きな課題だ。年に一度の同窓会的なイベントとするか、薬剤師の研究発表の場とするか。持続可能な大会運営のために、そろそろ筋道をつけるタイミングに差し掛かっているのではないだろうか。
(2025年10月31日掲載)
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