オピニオン

医療制度改革が問うもの

 「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2005」(骨太の方針05年版)で焦点になっていた社会保障給付費の伸びの抑制策は、医療費適正化のための「政策目標を設定する」と記述することで政府・与党が合意した。「経済規模と連動した指標で抑制を図る」という政府の当初方針は、盛り込まれないことで決着した。この結果について一般紙などでは、政府と族議員の綱引きによって表現が後退したと、批判的な論評が複数見られる。しかし、ちょっと待ってほしい。そもそも給付の伸びを名目国内総生産(GDP)などの経済指標に連動させるという案は乱暴過ぎないか。
 90年以降一貫して医療費の伸びは国民所得のそれを上回り、現在は32兆円に上る。高齢人口が増え、相対的に労働人口が減少すれば、税や保険料に頼った医療財源は確実に破綻する。現実に健保制度の赤字体質はもはや明らかだ。いまや団塊の世代が定年退職者の仲間入りをするところにまで来ているのだから、皆保険の社会保障としての目的と理念を見直すことが必須だ。予算に枠をはめることでどうにかなる問題ではないのだ。
 医療制度改革に問われているのは、政府が医療のセーフティー・ネットに果たす役割のビジョンである。言い換えれば、責任主体としての個々人が、自らの暮らしを築く中で、質の高い保健医療サービスを自らの判断と選択で利用できる社会、そのインフラ整備への方向性と政策を示すことが求められている。
 国民皆保険制度は、日本を世界一の長寿国に押し上げた。しかし、経済成長が下支えした制度は、国民の中に医療や福祉は天からの授かり物であり、無尽蔵にあるかのように見てしまうというコスト意識、主体者意識の希薄さも招いた。まず、改めるべきはそこである。そのためのアプローチは医療費にキャップをはめるのではなく、他にある。



(2005年6月24日掲載)



前後のオピニオン

二番煎じ
(2005年7月8日掲載)
◆医療制度改革が問うもの
(2005年6月24日掲載)
インドの医薬品市場の強み
(2005年6月17日掲載)