オピニオン
百年の孤独
南米コロンビア出身のノーベル文学賞作家、ガルシア・マルケスの代表作で、20世紀最高の文学のひとつにも数えられる「百年の孤独」が、1967年の発表から半世紀以上経た今年6月、国内で初めて文庫化され、発売前から増刷されるなど、話題を集めた。
死んだはずの人間が甦り、普通に日常生活を送り、そして再び死を迎える、あるいは4年11か月と2日間、雨が降り続け、止むと今度は旱魃が10年間続く――など、いわゆる「マジックリアリズム」と呼ばれる文体で、架空の町の創始者一族の百年に及ぶ盛衰を描いた同作は、多くの登場人物(しかも似たような名前の人物)が複雑に絡み合うストーリー展開などに起因する「難解」さばかりが強調されるが、行間に横たわるのは深く底知れない人間の孤独。人々は、齢を重ね、老齢となるほどに、孤独を深め、諦めと絶望に沈み込んでゆく。
さて、総務省の統計によると、24年9月現在、国内の65歳以上人口は3625万人、総人口に占める割合は29・3%で、いずれも過去最高を更新、日本の65歳以上人口の割合は世界200の国・地域で最高となり、超高齢化の進展を裏付けた。
さらに、警察庁の調査によると、今年1月~6月に自宅で死亡した独り暮らしの人は全国で3万7227人、うち65歳以上が2万8330人で76・1%を占めた。要するに、高齢化の進展と比例するように独居老人も増え、そうしてそのまま独りで(恐らくかなりの確率で誰にも看取られることなく)亡くなる、という社会の実相が浮き彫りになったともいえる。
「人生100年時代」の到来は、すなわち、「百年の孤独」の現実化、と言い換えることも可能なわけだ。
時を同じくして9月、政府は新たな「高齢社会対策大綱」を閣議決定し、「高齢者の割合が大きくなるなかで持続可能な社会を築いていくための取組み」を進める意向を表明したが、医療費の負担増なども視野に入れたこの大綱が、人々が将来に抱く漠とした不安に十分こたえ得るものかどうか、どうにも心許ない。総選挙の足音もひたひたと迫っている。政治は、こうした人々の不安にしっかりと向き合えるのか、注目したい。
(2024年10月4日掲載)
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