オピニオン
何となく焦る
シンガポールのリー・クアンユー元首相は先日、ある夕食会の席で、同国でも深刻化する少子化に対処するため、改めて移民受入れの必要性を訴えたという。しかし穏やかでないのは、その際に何と日本を反面教師として引き合いに出したことだ。曰く「日本は移民を望まない均質社会で、代わりに人口の減少と経済の停滞を選択した」「同じ決断をする余裕は我が国にはない」とのこと。日本が今後どんな選択をするのかは日本人自身にも分からないが、既に緩慢な死を選んだかのように言われるのは、やはりショックなことではある。無論、両国の間には国の規模から歴史、政治、人種構成に至るまで大きな違いがあり、比較は難しい。しかし人口僅か500万人とはいえ、1人あたりGDPでは上を行く国にこうも簡単に斬り捨てられてしまうと、何となく焦りを感じずにはいられない。
話は大きく変わるが、アイスランドを代表する映画監督、フリドリク・ソール・フリドリクソンの最新作「マンマ・ゴーゴー」を観てきた。これは認知症の母親の奇行に翻弄された監督自身の体験を基にした作品で、老人ホームを脱出して故郷を目指す老カップルを描いた91年の出世作「春にして君を想う」の外伝ともいえる内容だ。そんなわけで本作でも、彼の国の老人ホームの様子が描かれているが、驚いたのは介護職員が全てアジア系にとって変わっていたこと。演出的な他意はなさそうだったので、これは単に現在の状況を反映した結果なのだろう。ということは、シンガポールよりさらに小さな極北の島国でも(因みに他の先進国ほど少子化は進んでいないと聞く)、既に何らかの対策は打たれているのかもしれない──。そんなことを考え始めると、映画の内容はそっちのけで、やはり焦りのようなものを感じてしまった次第なのだった。
(2012年2月17日掲載)
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