オピニオン

終末期に向けての医療知識を

 いわゆる〝尊厳死法〟が世に出て話題となったからか、最近書店で目立つのは、「終末期」をテーマにした書物が多く発刊されていること。内容は臨床的な医学書というよりも、その多くが無理な延命行為は止めておくべき――との立場を取っている医師や患者からのメッセージだ。
 我が家族の歴史を思い起こせば、祖父母の世代(明治~大正生まれ)では全員が長患いすることなく、いつの間にか旅立っていった。その後医療技術が発展を続け、現在は父母・義父母の世代が後期高齢者になりつつあり全員が(各々持病を抱えつつも)健在である。自分の事となると、男性の平均寿命の半分を過ぎた頃から連れ合いには「もしものことがあってもチューブに繋がれてまで生かしてほしくない」とそれとなく伝えてあるのだが、逆の立場なら「一瞬でも長く生きていてほしい」と思う自分がいる。これは実際当事者になってみなければ判断のしようのない問題かもしれない。
 また終末期をテーマとした本の中には、〝最も苦しくないのは、癌にかかっても治療せず最期を迎えることだ〟と記したものもある。これも其々の状況によって判断が分かれるところだ。筆者にはそれなりの思いがあり該当するケースがあったにせよ、読者がこれを鵜呑みにし、「癌を治療しないのが善い医療」とするトレンドになったらどうするのか。責任をもって推奨できるものでもないだろう。こうなれば個々の人生哲学の領域まで踏み込まざるを得なくなる問題だが、結局のところ本音は「苦しみが長引くのは嫌だ」「(金銭的な面も含め)迷惑をかけたくない」あたりに収斂する。その点を踏まえ、人は最期に向けた医療においていかなるプロセスを経ていくのか、ぽっくり寺にお参りに行く前に、知識として知っておくことが大切なのだろう。



(2012年11月16日掲載)



前後のオピニオン

使ってみてもらうということ
(2012年11月23日掲載)
◆終末期に向けての医療知識を
(2012年11月16日掲載)
疾患啓発プレスセミナーの効用
(2012年11月9日掲載)