オピニオン
寝ぼけた話
今年の夏休みは思うところあって、5年半ぶりに日本を飛び出した。久々の海外では色々と貴重な体験ができたが、一方で不測の事態に戸惑うことも多かった。まずはこの時代にIT機器の1つも持たずに海外を旅するのは、誠に非合理的だということ。学生時代の旅行スタイルを引きずっているせいか、ハイテク機器に頼る旅はできれば避けたいと思うのだが、やはり10日で4か国4都市を周る行程を、全て自力で仕切るのはしんどかった。
あとはトラベラーズ・チェックの使い勝手が予想以上に悪くなっていた。ロケーションにもよるのかもしれないが、交換条件はどこもすこぶる悪い。その話を帰国後に周囲の人間にしてみると、ことごとく「まだ使っていたのか」と呆れられた。5年半のブランクは長い。かつては海外の旅に明け暮れていたこともあり、自分では旅慣れた人間だと思っていたが、ただの自惚れだったと思う。
それよりもショックだったのは、帰国後かなりの間、時差ボケを克服できなかったことだ。今まではどこから帰国しても一晩で再起動できていたことを考えると、これはかなり手痛い初体験だった。堪りかねて週末に市販の睡眠導入剤を飲んでみたら、日頃の3倍寝てしまって話にならない。歳を食ったと思う。
そんなわけでこの機会に、時差ボケにつける良い薬はないかと探してみた。パッションフルーツに含まれる成分に、体内時計を遅らせる働きがあると聞いてロマンを感じてみたり(和名が「果物時計草」というのは出来すぎた話だと思う)、メラトニンなどの効能・効果にも思いを馳せた。とはいえITとは違えど、医薬品こそテクノロジーの結晶ではないのか。ハイテクを敬遠する人間が、太陽の動きに逆らっておきながら、結局は薬頼みというのも、そもそも寝ぼけた話かもしれない。そう考えた辺りで今回は何となく観念した。旅慣れた人間になりたいと思う。
(2012年12月7日掲載)
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