オピニオン
「数字は独りで歩かへんやろ」
「数字が独り歩きする」という言い方をする。大木こだま・ひびきの漫才なら「数字は独りで歩かへんやろ~」と例の特徴的なだみ声でつっこみが入るところだが、医療関係者ならば、2年に1度の診療報酬改定と重なる年末の予算編成の折、財務省と厚労省(時には与党や官邸)の間を数字が独りで勝手に歩き回る(あるいは駆けずり回る)様を何度も目にしてきたことだろう。
たかが(と言っては語弊があるが)医療費ですらそうなのだから、「M7クラスの首都圏直下型地震が4年以内に発生する確率は70%」という衝撃的な数字ともなれば独り歩きどころか様々な尾ひれをつけて世間を泳ぎ回ってもおかしくはない。しかも、発表したのは日本の最高学府、東京大学地震研究所なのだ。どうもいまひとつ信用の置けない政府発表よりはこちらのほうに信憑性がありそうだと思う人がいても(そしてそういう人が多数を占めても)なんら不思議ではない。しかし、どうやらこれを煽情的な数字と受け止めるのは少数派で、多くの健全なる人々はむしろ貴重な警告と捉える傾向さえ見える。それもこれも我々があの光景を、自分の目で目撃し、身をもって経験した結果だろう。この国のありようを根底から覆してしまった1年前のあの日に、改めて心をいたす。
さて、震災医療の現場での存在感が嘘のように、医薬品卸が苦境に喘いでいる。新薬創出・適応外薬解消等促進加算の導入とセットだったはずの流通改善は、しかし蓋を開けてみれば薬価差圧縮どころか10年改定時と同じ平均乖離率8.4%を維持するのがやっとのありさま。しかもこちらは確かなデータに基づく数字であり、本来なら決して「独り歩き」などしないはずなのに、「加算品目を増やさないために低く見積もられた」とまで囁かれる始末。今度こそ、数字で結果を示せるのか、4月以降が何度目かの正念場となる。
(2012年3月2日掲載)
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