オピニオン

「死を忘れるな」

 スコットランド人作家ミュリエル・スパーク(1918~2006)が59年に発表した「死を忘れるな(メメント・モリ)」は、登場人物がほぼ全員70歳以上の老人という異色の高齢者小説。ある日、主人公のひとりである79歳の女性のもとに、正体不明の電話がかかってくる。「死ぬ運命を忘れるな」。声の主はそれだけ言うと、電話を切る。やがて、怪電話は女性の知人たちにもかかってくるようになり、老人たちの生活に波紋をひき起こす。ある者は犯人捜しに躍起になるが、警察はまじめに取り合ってくれず、誰もが疑心暗鬼に陥り始める――。
 さて、厚労省が9月1日現在の住民基本台帳をもとに算出した報告数によると、国内の100歳以上の高齢者数は、10万7677人で前年を7914人上回るとともに、初めて10万人を超えたことが分かった。男女別では、男性1万3379人に対し、女性は9万4298人と、女性が圧倒的に多かった。最高齢は、女性が114歳、男性は112歳だった。
 また、総務省の統計では、26年9月現在の65歳以上の高齢者人口は3624万人で前年比2万人増、総人口に占める割合は29・6%で過去最高となり、年々高齢化のスピードが増していることを裏付けた。
 「健康長寿」は誰にとっても理想だろう。しかし、誰ひとり、「死」から逃れることはできない。高齢化社会に生きる我々はだからこそ、いくつまで生きるかではなく、いかに生きるかを、各々が問い直さねばならないのかもしれない。
「もし人生をもういちどやりなおせるとしたら、僕は死というものを毎晩考えてみる習慣をつけるね。いわば、死を忘れない訓練をするわけですよ。これくらい人生を充実させてくれる訓練はない。死がやってきたとき、それが不意打ちであっては困る。人生において当然予期される事態のひとつなんだからね。たえず死を感じていなければ人生は味気ないよ。卵の白味を食べて生きているようなものだ」
 前述のスパークの小説の登場人物の言葉である。死があるからこそ、生は輝く。逆説のようだが、ひとつの真理ではある。



(2026年10月16日掲載)



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(2026年10月9日掲載)