オピニオン
煙のように
政府の受動喫煙対策が停滞している。自民党内からの反発を受け、厚生労働省の対策案は宙に浮いた形だ。地上に降り立つ頃には、別人になっているかもしれない。壮大なイリュージョンマジックによって、対策案は煙のように消えるのだ。なぜこんなことに?
喫煙の健康リスクについては、既に多くの研究成果が積み上がっている。直近では、国立がん研究センターが4月14日に、喫煙が急性骨髄性白血病の罹患リスクを上げることを報告した。これまでの国際的評価が、日本人にも当てはまることを確認した形だ。
喫煙対策を求める声も、内外ともに強くなっている。来日した世界保健機関(WHO)の幹部は7日、現在の厚労省案でも国際的な視点では規制が不十分なことを指摘した。がん対策の基本計画を見直している厚労省の協議会でも、喫煙対策の不足が問題視され続けている。
しかし、不可能なことを可能にしてこそのマジックだ。堆積した研究成果も内外からの要求も、全ては「対策案消失」マジックのカタルシスを高めるために働くのかもしれない。そう考えてみれば、このマジシャンは中々の曲者だ。
ここで、「脱出王」の異名を持つ伝説的なマジシャン、ハリー・フーディーニ(1874~1926)の逸話を思いだそう。彼はその経験を活かして、当時流行していた超能力や心霊術のいかさまを暴く「サイキックハンター」としても活躍した。偉大な先人に倣って、現代のマジシャンにも「いかさま」を見抜く眼を持って頂きたい。裏を返せば、「本物」を認める勇気も必要だろう。
(2017年4月28日掲載)
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◇奇妙な光景 (2017年5月12日掲載) |
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