オピニオン
「赤死病」
「野生の呼び声」(1903)などが人気を博した米国人作家ジャック・ロンドン(1876~1916)の短編小説「赤死病」は、感染症によるパンデミックを描いたディストピアSF。2013年夏に発生した疫病により文明は衰退して人類は未開へと逆戻りし、発生から60年後には世界の人口は数百人にまで減少する。疫病は、「その病気の最初の徴候の一つとして顔と体全体が赤色に変わる」「最初の徴候が現れた瞬間から、一人一人が一時間で死んでしまう」という症状から「赤死病」と名付けられる。
前世紀初頭に書かれたのが信じられないくらい、年代設定も含めて、まるで新型コロナウイルスの発生を予見していたかのような内容に驚くが、作者は主人公に、人類が背負った宿命について次のように語らせる。
「ところで、こうした病原菌のわけのわからないところというのは、この点なんだよ。いつだって新しいやつが現れて、人間の体の中に住むんだ。ずうっと大昔、世界にほんのわずかの人間しかいなかった時分には、疾患なんかほとんどなかった。人間が増え、大都市や文明の中で互いに身を寄せ合って暮らすようになると、新しい疾患が現れ、新しい種類の病原菌が人間の体内に入った。そうして何百万、何十億という無数の人間が殺されたというわけだ。そして、人間が密集すればするほど、現れた新しい疾患もいっそう恐ろしいものとなった」
さて、新型コロナが落ち着いたと思ったら、今度は大西洋を航行中のクルーズ船で「ハンタウイルス」なる聞きなれないウイルスの集団感染が確認されたとのニュースが世界を駆け巡った。厚労省のHPによると、ハンタウイルスは「病原体を保有するげっ歯類の排泄物を含む粉じんの吸入や排泄物で汚染された食品や飲料の摂取」を主な感染経路とし、「発熱や咳、筋肉痛など」を伴いながら「急速に症状が進行し、呼吸不全、循環不全を呈し死亡することがある」という。治療法はなく、対症療法が中心となるが、専門家によれば「日本ですぐに流行が起こる可能性は低い」とのこと。ともあれ、感染症との攻防は果てしがない。作家の警告が世紀を超えて響いてくるようだ。
(2026年6月19日掲載)
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