オピニオン

「緩和ケア」に対する思い込み

 厚生労働省の「緩和ケア推進検討会」が11月19日に開催された。ここで矢島鉄也健康局長は「がんと診断された時に緩和ケアに関するパンフレットを患者に渡すことは可能か」と検討会構成員に投げかけた。がん対策推進基本計画の重点課題に「がんと診断されたときからの緩和ケアの推進」が掲げられていることにかんがみてのことだが、矢島局長の質問に対し、構成員たちは一様に「難しい」との考えを示した。もちろん、物理的に難しいわけではない。がんと告知され、頭の中が真っ白になった患者に対し、さらに「緩和ケア」という言葉を示すことが、心情的に追い打ちをかけることにならないかと心配してのことである。
 「明日もまた生きていこう」(マガジンハウス)は、若くしてがんを告知されたバレーボール選手・横山友美佳の手記だが、モルヒネを使用した緩和ケアを施されたとき「ついにこのときが来た」との感想を記している。手記から国立がんセンターで治療を受けていたと推察されるが、それでも緩和ケアに対する誤解はとけなかったようだ。「聖の青春」(講談社)では、村山聖棋士はどんなに辛くとも最後まで医療用麻薬を使用することを自らに禁じていた。頭の回転がにぶり、将棋が打てなくなると思い込んでいたのだ。
 厚生労働省は緩和ケアセンターの整備や緩和ケアチームの充実化を図っているが、緩和ケアの推進には「思い込み」をどれだけ解消できるかが最も大きな課題だ。



(2012年11月30日掲載)



前後のオピニオン

寝ぼけた話
(2012年12月7日掲載)
◆「緩和ケア」に対する思い込み
(2012年11月30日掲載)
使ってみてもらうということ
(2012年11月23日掲載)