オピニオン
「いつものように」で大丈夫?
コンピュータに付随しているキーボードは大概、左上から右へ「QWERTY」の順番にキーが並んでいる。これは実のところ、人間工学に基づいて打ちやすいよう設定されたものではなく、タイプライター時代からの名残である。タイプライター発明当初は、隣同士のキーを連続して打つとタイプバーが絡まりやすかったそうで、使用頻度の高い単語をタイプする時、わざわざ飛び飛びで打つよう設計されたというのが真相らしい。実際英語で最も使用頻度の高い単語「THE」「OF」「AND」など、この配列ではいずれもランダムな動きとなり、打ちやすいとは言えない(意味のないスペルであるMKOやNJIは逆に打ちやすい)。そしてもはやタイプバーが絡まることはなくなった現代においても、長年の習慣からかキーボードの配列は変わらず人間工学を無視した並びのままだ。
また新聞ではかつて、左右いっぱいに段の間の線が横切ることを「腹切り」と呼んで禁則にしていたが、これは適当な箇所に折り返し点がないと右から左へ横方向ばかりに目を動かすのが大変だからという理由の他に、活版印刷時代にはその横線の凸版が長過ぎて折れやすいという欠点を補うためのものだった。新聞の割付を担当する者はまず「腹切り」を紙面に作らないよう教え込まれたものだが、本質を考えないで形式に囚われると、コンピュータで紙面を作成する時代に「腹切り」を作らないことばかりに目が行ってしまい、無駄な力を費やしてしまうことになる。
とらわれのない意識で周りをふと見渡してみると、「いつもの流れで片をつけていたもの」が、実は「何の意味もない」ことだったどころか、「ムダ」でさえあることが判明する。時代の変遷に伴い変わっていくこともある。「前回踏襲で」の結論は、自分が新しい領域に踏み込むことを恐れたが故――ということのないようにしたい。これは自戒を込めての一言だ。
(2012年2月3日掲載)
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