オピニオン

故人は…

 毎年5月31日はWHOが定める「世界禁煙デー」だ。厚生労働省では20年前から、この日を初日とする1週間を「禁煙週間」と定めて、シンポジウムなどの啓発活動を行っている。当然、本庁舎内においても「対応」が行われるのは言うまでもなく、今年はたばこの自販機が一時休止されるほか、受動喫煙防止を理由に、正面玄関脇の屋外喫煙所が(多分永遠に)廃止されることになった。それなら目の前の道路でアイドリングしている車両は…という気もするが、これも時代の趨勢なのだろう。ちなみに本庁舎内に残された喫煙所は講堂脇の一角のみだが、このエリアはほぼ露天。雨の日などは悲惨な眺めになりそうだ。
 さて先日、ディスコの女王と呼ばれたアメリカ人歌手のドナ・サマーが亡くなった。享年63歳で、死因は肺がんだという。彼女の歌に慣れ親しんだ世代ではないので、亡くなったことにそれほど感慨はない。しかし気になったのは、直後になぜか遺族が「故人は非喫煙者でした」と不自然な釈明をしたことだ。
 非喫煙者で、しかも受動喫煙の機会が極めて少ないと考えられる人でも、肺がんに罹る人は結構いると聞く。それでもこうまでして、遺族が死者の名誉(?)を守らなくてはいけない理由は何なのか。アメリカという国のお国柄のせいなのだろうか。ちなみに当人は、自身の肺がんの理由が9・11米国同時多発テロの粉塵にあると考えていたというから、話は何だかややこしい。
 いずれにせよ将来の日本でも、誰かが亡くなる度に喪主が「故人は非喫煙者でした」と言わなくてはいけなくなったりするとしたら、気が滅入る。話が妙な方向に加速して、「喫煙者でしたが、ジャンクフードは一切食べませんでした。お酒は嗜む程度でした。塩分は…」とか何とか言わなくてはいけない時代が来るとしたら、それは流石にいやだなあ。



(2012年6月1日掲載)



前後のオピニオン

日医会長の分業批判で広がる波紋
(2012年6月8日掲載)
◆故人は…
(2012年6月1日掲載)
続く「喫煙率」をめぐる攻防
(2012年5月18日掲載)