オピニオン
タミフル報道について
ある事象について、それを正確に、過不足無い情報として他者に伝えるということは本当に難しい。先入観、願望、立場、コミュニケーション能力、理解力--等々、様々な要因により、伝えられた情報が、情報を伝える側の意図と離れてしまうことがあるからだ。それ故、多数を対象に情報を伝える報道という業のあり方については、今も昔も多くの議論を呼んでいるのだが、決定的な答えの形が見えてこない。
インフルエンザ治療薬「タミフル」について最近多くの報道がなされているが、その内容は「全世界の脅威となりつつある鳥インフルエンザ、未知の新型インフルエンザに対する特効薬としての期待」と、「服用後の精神・神経症状に対する懸念」とに大別することが出来る。このことは、医薬品という存在に内在する、期待される「効能・効果」と、望まれない「副作用」という、いわば異なる事実・評価があることを示している。
医薬品に限らず、全ての事象が絶対無二の存在で、その評価が万人との完全一致をみるならば報道はもはや無用の長物だろう。しかし、「タミフル」の報道からもわかるように、人が全てを同時に理解し、しかも、その評価が全く同じということは現実には有り得ない。全ての事象が、それ以外との関係性の総体という究めて不確かな存在であるからこそ、報道という、物事のある一面を切り取り、伝えていく業は成り立つのである。更に言えば、伝えられる側は、この点を意識しなければ、その一面すら捉えることが出来ない。
(2005年12月2日掲載)
前後のオピニオン |
◇小泉首相「科学技術は明日への投資」 (2005年12月9日掲載) |
◆タミフル報道について (2005年12月2日掲載) |
◇医療の価値とは? (2005年11月25日掲載) |