オピニオン
開幕目前、大阪万博
「それは1904年のことで、セント・ルイス市に万国大博覧会開催の準備が進められていた。これまで全世界で開かれた如何なるこの種の催しよりも大きい、良い、立派な、文明の活歴史になるはずで、アルタモントの連中もずいぶん稼ぎに出かけようとしていた。旅行をしてしかも金が儲かるという見込みに、エライザは有頂天になった」(「天使よ故郷を見よ」)。
フォークナー、ヘミングウェイの両ノーベル文学賞受賞者やフィッツジェラルドなど、「失われた世代」と呼ばれる作家らと同時代生まれの米国人作家トマス・ウルフ(1900~1938)は、1929年に処女長編「天使よ故郷を見よ」を発表。架空の街「アルタモント」を舞台にした自伝的作品である同作で一躍、米国文壇の寵児となった。彼の死後、フォークナーは、同世代の作家でもっとも才能のある人物としてウルフの名を挙げるのが常だったという。
前述の引用は、「天使よ故郷を見よ」の万博に触れた一節。20世紀最初の万博開催地となったセント・ルイスでは、同時期にオリンピックまで開かれたという事情もあってか、(少なくとも小説の中では)お祭り騒ぎ的雰囲気が強かったようだ。ウィキペディアによると、「国際博覧会条約」では、「博覧会とは、名称の如何を問わず、公衆の教育を主たる目的とするのであって、文明の必要とするものに応じるために人類が利用することのできる手段または人類の活動の一若しくは二以上の部門において達成された進歩若しくはそれらの部門における将来の展望を示すものをいう」と定義されるらしいが、今も昔も、小難しい理念よりも「商売っ気」のほうが勝るということか。実際、大阪万博のHPを見ても、開催目的には「日本の成長を持続させる起爆剤にします」と明記してあり、こちらは何とも正直で潔い。
さて、いよいよ開幕目前の大阪万博。前売り入場券の販売不振や会場アクセスの不便さ等々、さまざま問題も指摘されるが、目論見通り「成長の起爆剤」となるか。なお、協賛企業に名を連ねる製薬企業関係者が耳打ちしてくれたところによると、混雑を避けるには開幕直後からのひと月くらいが狙い目らしい。
(2025年3月14日掲載)
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