オピニオン
医療の価値とは?
現在、年末に向けて診療報酬・薬価等改定を含む2006年度予算案、医療制度改革案の取りまとめに向けた議論が活発に行われている。議論の中心は、高齢社会の進展に伴い増えつづける医療費の抑制にあるが、医療費を圧縮すべきコストと見るか、他分野への波及効果をもった投資と見るかで、見えてくるものは違うのではないか。
例えば、日本の国有林制度は経済的には完全に破綻している。長期債務が3兆円以上に上り、そのうちの2兆円を税金で肩代わりしたが、国有林から得られる収入は、運営、維持のために使われる費用を大きく下回っており、赤字は増える一方だ。
では、国有林は不要なのだろうか? 森林には木材としての価値以外に、二酸化炭素の吸収減、水源維持、土壌流出防止、野生動物の生息地、国民のレクリエーションの場など様々な価値がある。林野庁によれば、これら木材以外の価値を経済的価値として計算すると、75兆円に上るという。
また、国民が森林に期待している役割についてのアンケート結果を見ると、災害防止が56%でトップだ。以下、水源涵養41%、環境維持39%、大気浄化29%などが続き、林産製品は15%、木材生産は13%に過ぎなかった。国民は、産業としてではなく防災や環境の面から森林を評価しているということだ。
これらのことは、投入した税金とリターンのみで森林の価値を図ることはできないことを意味している。国有林制度の経済効率を高める議論はやるべきだが、黒字化は難しい。だから民間ではなく国が関与すべきテーマなのだろう。
医療についてはどうか? 人口構造、疾病構造、経済構造の変化で効率化(抑制ではない)など、耐用年数を過ぎた医療保険制度の改革は実行せねばならない。その際には、国民が医療に求めるもの、医療に公的資金を投入する価値をどう評価するのか、という視点が必要ではないか。
(2005年11月25日掲載)
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