オピニオン

「緊急避妊薬の試験販売を巡る現場の懸念」

 「あくまでも厚労省が日本薬剤師会に依頼している試験事業であり、そもそも論で、緊急避妊薬は現状でも希望者は適切に購入できる」。先ほど行われた東京都薬剤師会の定例記者会見で、一般紙がオブザーバーとして参加した。都薬と都薬記者会加盟社により運営されている定例記者会見は、稀に一般紙からの参加希望が入る。余程のことがない限り、参加を断るものではないが、定期的な参加を希望するのであれば記者会に加盟してください、という流れになる。さて、冒頭のコメントは、厚労省が行っている緊急避妊薬の実証事業について、東京都のみ今年度の事業開始が約1カ月遅延していた要因を問われ、その説明の際に高橋正夫会長が前置きとして語った内容だ。社会的にも高い関心度が寄せられる緊急避妊薬の試験事業であるが、実は現場から困惑する意見に遭遇することが少なくないという。前年度事業にしていた薬局の薬剤師によると、「緊急避妊薬の購入を制限するのか」、「なぜ購入希望者の情報を教えないといけないのか」など、試験事業の趣旨を理解しないままに、薬局や薬剤師を批判する声に曝されたことを打ち明ける。昨年から実施している緊急避妊薬に関する実証事業は、スイッチ化するための筋道を検討し、必要な場合が生じたときに、スムーズに服用までたどり着けるかを探るもので、「薬を渡して終わり、と思って今回の実証事業に参加している薬剤師はいない」(前出の薬剤師)と高い倫理観で臨む人がほとんどであるという。それだけに“緊急避妊薬の購入は東京のみが停滞している”とミスリードするような記事が掲載されると、試験事業のみならず、緊急避妊薬へのアクセスそのものが阻害される事態になりかねないことへの懸念を髙橋会長は強調したものと言えよう。厚労省の令和5年度衛生行政報告例によると、令和5年度における日本国内の人工妊娠中絶件数は12万6734件で、このうち20歳未満の事例は1万053件にのぼる。こうした背景を踏まえ、緊急避妊薬のスイッチ化に対しては、地に足の着いた取組みが重要ではないだろうか。



(2024年11月22日掲載)



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(2024年11月29日掲載)
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(2024年11月22日掲載)
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