オピニオン

「彼らは知りたがらない」

 「私は45歳で病から目覚めた。穏やかで正気で、比較的いい健康状態で。ただし、肝臓が弱り、この病を生き延びた者すべてに共通の、肉体をよそから借りてきたような外見になってはいたが……」「この病とは麻薬中毒で、私は過去15年間中毒だった。(中略)私はいろいろな形で麻薬をやった。(中略)麻薬を吸ったし、嗅いだし、食べたし、静脈/皮下/筋肉に注射し、座薬のように挿入もした」(「裸のランチ」序文より)
 米国人作家ウィリアム・バロウズ(1914~1997)は1959年、15年以上にわたって麻薬に溺れた経験をもとにした小説「裸のランチ」を発表。内容の反社会性、過激さから米国政府より発禁処分を受けたものの、かえって話題を呼び、時代の寵児となった。
 バロウズは晩年、一度は足を洗ったはずの麻薬に再び依存するようになったという。麻薬依存からの回復がいかに困難かを示すエピソードでもある。バロウズ自身、それを予見していたかのように、「裸のランチ」に次のように記している。
 「麻薬常用者はたいていみんな似ている。彼らは知りたがらない……彼らには何も教えることはできない……アヘン吸飲者はアヘンを吸うこと以外は何も知りたがらない……ヘロイン常用者も同じことだ……注射器の針だけしかほしくない。あとのものはどうだっていい……」
 さて、日本も薬物の問題と無縁ではない。大麻の使用は近年、若年化が顕著だし、危険ドラッグも依然、取り締まる側とのいたちごっこが続く。さらに最近は、主に若年層によるOTC医薬品等の過剰摂取や濫用、いわゆるオーバードーズも問題となっている。厚労省が通常国会に提出した医薬品医療機器等法改正案では、こうした医薬品の不適正使用への対応策として、薬局機能を強化し、「濫用のおそれのある医薬品について、販売方法を見直し、若年者に対しては適正量に限って販売すること等を義務付ける」ことを盛り込んでいる。ドラッグ問題のゲートキーパーとしての薬局・薬剤師への期待は大きい。



(2025年5月16日掲載)



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(2025年5月23日掲載)
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