オピニオン

日比谷野外音楽堂の演奏

 厚生労働省の真下には日比谷野外音楽堂がある。かつてRCサクセションやブルーハーツなど伝説のバンドがそのステージに立ったこともあり、アーティストや音楽ファンにとって思い入れの強い会場の一つになっている。私は今、野音から漏れ聴こえてくる演奏を聴きながら、この文章を書いている。
 10数年前まで音楽雑誌を作っていた。インディーズのミュージシャンが対象だったため、当時は誰も知らないアーティストを、音楽的な才能と秘めたポテンシャルを頼りに取材を進めた。インディーズというのは「インディペンデント」。つまり「独立」という意味で、彼らの多くはメジャーなレコード会社に所属せず、独自で活動を行っていた。彼らに話を聞くのは刺激的だった。
 2001年の終わりごろ、ライブハウスで「僕、レーベルを始めようと思うんです」と声をかけられた。彼は元々ボーカルとして表舞台に立っていたが、裏方に回り、アーティストの活動をサポートするという。朗らかな彼のキャラクターのせいか、取材に行くといつも誰かがいて、事務所はみんなの溜まり場のようになっていた。彼はそうやって「溜まり場」を提供するようにイベントを行い、アンテナに引っかかった様々なアーティストの音源をリリースし、瞬く間に音楽シーンの第一線に立つレーベルを育てた。
 あれから17年が経った。今、彼が最初に手を取り合ったアーティストが、野音で演奏をしている。懐かしさと感慨深さがこみ上げる中、私も、今進んでいる道をしっかりと極めて続けていかなければ、と、記事を書きながら気を引き締めた。



(2019年4月26日掲載)



前後のオピニオン

統一地方選挙のサプライズ
(2019年5月10日掲載)
◆日比谷野外音楽堂の演奏
(2019年4月26日掲載)
「対物」から「対人」業務への転換を
(2019年4月19日掲載)