オピニオン

空気塞栓の空気量

 私事ではあるが1週間ほど入院した。蜂窩織炎という細菌感染症に罹ったのである。細菌感染ということで抗菌薬治療となり、入院中は1日に2~3回、抗菌薬を点滴してもらった。
 入院して数日経ったある日、ふと点滴のチューブを見ると全長3mmくらいの気泡があった。この気泡が体の中に入ったら「空気塞栓」を起こすのではないかと、どきりとした。敵の攻撃で血管の中に空気を送り込まれ「このままでは空気塞栓を起こして死んでしまう!」という昔読んだマンガのセリフを思い出したのである。近くに看護師さんがいたので「この気泡、大丈夫ですかね」と聞いたら、速やかに気泡を取り除いてくれた。
 そのあと看護師さんは、これくらいの気泡なら、入っても血流の中で小さな泡となって吸収されるので問題ないですよと教えてくれた。さらに海外で行われた動物実験の話までしてくれ、結構な量が入らなければ大丈夫だと説明までしてくれた。
 その量がどれほどなのか忘れてしまったので、退院してから文献を調べてみたところ、静脈内に入った空気の致死量は、ウサギで約0.5?0.75 ml/kg、イヌで7.5?15.0 ml/kg。そして人間では3~5ml/kgと推測されているそうだ。また、国内の医療現場では「10mL」が安全限界の目安とされているようである。内径2.5mmのチューブの場合だと約220cmの気泡に相当する。これなら、数十分の点滴で空気塞栓になる心配はない。記者でありながらマンガのセリフに踊らされた自分に苦笑した。



(2019年10月25日掲載)



前後のオピニオン

濫用のおそれある医薬品への対応
(2019年11月1日掲載)
◆空気塞栓の空気量
(2019年10月25日掲載)
がん検査分野の発展
(2019年10月18日掲載)