オピニオン

奇妙な光景

 昨年の初夏の頃だったと思うが、この欄で「近所の病院の敷地内」で薬局の建設が進められていると書いた。絵に描いたような「敷地内薬局」だ。その後、薬局の建設は着々と進み、夏の終わりには無事完成、公道を挟んだ向かい側に古くから構える門前薬局との処方せん「争奪戦」が開始された(のだと思う)。ちなみにその病院(以降、A病院)というのは、産婦人科と内科を標榜する50床規模程度の病院で、筆者にはまるで縁がなく、だんだんと興味も薄れてほとんど忘れかけていた。ところが……
 今年の初めのこと、家内が定期健康診断を受けに当該病院を訪れたところ、何といつの間にか閉院(一応、「全科休診」とのことだが)していたという。家内も年に一度の健診以外に受診することはなかったのでまるで気づかなかったのだが、すでに昨年11月中旬には閉まっていたらしい。「敷地内薬局」開設から、わずか3か月ほどの出来事で、当然といえば当然だが、「敷地内薬局」のほうは何事もなかったように営業している(通りを挟んだ門前薬局も同様)。
 何があったかは定かではない。A病院の経営状態は以前から悪化していたのかも知れない。薬局からの賃貸借料を経営の足しにしようと「敷地内薬局」を誘致したものの、努力もむなしく、A病院の経営は行き詰ったのかも知れない。あるいは医師、看護師等のスタッフ不足により、休診止むなしの事態に至ったことも考えられる。
 もちろん、病院も、薬局も、不正を行ったわけではない。しかし、診療再開の見通しすら示されておらず、それでいて建物だけは依然、元のまま取り残された状態の病院の敷地内で、薬局のみが営業を続けている光景は、何とも奇異に映る。病院が、「敷地内薬局」を誘致する最大の理由が経営的側面にある以上、経営的に逼迫している病院ほど、「敷地内薬局」誘致に熱心に動くかも知れない。そうなれば、同じようなケースが今後も出てこないとも限らない。「患者本位」と呼ぶには、いささか空しい光景である。



(2017年5月12日掲載)



前後のオピニオン

ユーザーを欺く事例
(2017年5月15日掲載)
◆奇妙な光景
(2017年5月12日掲載)
煙のように
(2017年4月28日掲載)